編集者2.0+
はじめまして、幻冬舎の箕輪です。
久しぶりに長めのnoteを書きたいと思っています。
今、「サウナランド」というサウナ雑誌の創刊準備中でほぼ未経験の箕輪編集室メンバーと日々雑誌を作ってるので、
サウナランド編集部のみんなにちゃんと読んでもらう、まとまった記事を書きたいと思いました。
また、今まで多くの編集者講座や本を出したい人のためのスクールに講師などで参加させてもらいましたが、
講師や受講生の熱の割には、一部分において全くアップデートされていないなと毎回感じるので、それを書いておこう考えたのです。
ーーーーーーーーーー
いわゆるSNSが発達する前までのやり方を編集者1.0、SNS以降を編集者2.0、そしてこれからのポストコロナ時代の 編集者2.0 +とします。
【編集者1.0と2.0は何が変わったか】
編集という作業は大きく分けて
①見つける②調理する③届ける
という3ステップがあります。
①見つけるは、いわゆる新しい才能を見つける、超大物を口説く、誰もが興味惹かれるテーマを発見する、など著者やテーマを見つけてくる行為です。
②調理するは、本の中身の文章を面白くしたり、流れをきれいにしたり、どんな表紙、どんなタイトルにするかを考えることです。
ここが一般的には編集者の仕事と捉えられていると思います。
③届けるは、出来上がった本をいかにして読者に届けるかという部分です。宣伝したり口コミが広がったりというところを言います。
んで、SNSやインターネットの出現によってどのステップも少し変わりました。
①見つけるは、
テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアで才能を見つけて、会食などリアルな場で口説き落としたり、手紙を送るというのが編集者の腕の見せ所であり、
わが師、見城徹さんの仕事は数々の伝説として語り継がれています。
その見城さんに本を書いてほしいと思った僕が使ったのは755というSNSです。
あの頃はSNSで出版オファーをするという手法を取る編集者は多くなく、見城さんにもSNSなんかで仕事が決まると思うなと思ったと言われますが、
今では仕事のオファーや出会いなど、むしろリアルよりSNS経由のほうが多くなっている印象です。
なので、新しい才能や面白いテーマを見つけるのもSNSからというのが一般的になったような気がします。
②調理するは、
SNSによって変わるかというと編集者としての基本的な作業や本質はそんな変わらないと思います。
長文を読むのが苦手になっているから短文で小気味良くする、SNSで会話文を読みなれているから口語文チックにするなどの変化はあったとしても、こういったマイナーチェンジはいつの時代も行われてきています。
③届ける。グダグダ当たり前のことを書いていて、心が折れかけましたがSNSによって大きく変わったのはこの部分です。
【届かなくなった本たち】
何度もこすられている話過ぎて、書くのがつらいし、やめたいです。
ですが、多くの編集者講座や出版スクールなどでは全くアップデートされていないので、明確に一回言語化して残しておきます。
なぜなら僕はそういった講座にはもはや出禁になっているのが多いからです。
さて、千回くらい言ってるので、端的に書きますが、SNSによって、届ける、の何が変わったか。
それは普通に本を出しても誰にも届かなくなったという話です。
昔は、メディアとかコンテンツが全然足りませんでした。電車や待ち合わせ時間で読むもの、家で見るものがなかったので、本を持ち歩いたり、人気ドラマが始まるまでに家族でテレビの前に待機したりしてました。
テレビを見るか、本・雑誌を読むか、ラジオを聞くか、映画を見るか、みたいな限られた選択肢が可処分時間を取り合ってました。
そんな時代は良い才能を見つけ、良い本を作ったら、あとは新聞に広告を出すかテレビに取り上げてもらえば、かなりの確率で発見してもらえて、運が良ければベストセラーになってました。
しかし今やコンテンツが無限にあります。いわゆる本のライバルは他の本でも、テレビでさえもなくなって、ネットフリックスであり恋人からのLINEであるわけです。
こんな時代に、普通に本を出して、普通に本を宣伝しても、届かないわけです。まったく発見されない。
にもかかわらず、いまだに多くの現場では②の調理するとこまで頑張って、③の届けるは永遠にアップデートされていません。
【どう届けるか】
ここまでは、ざっくりとした前提ですが、では具体的にどう届けるかです。
今までは本の発売日からがプロモーションスタートでした。
なんなら、情報解禁日なるものがあって、そこまで頑なに内容を秘密にし、情報解禁日に一斉にプロモーションをスタートさせます。
もちろん現代でもこういった戦略が功を奏する場面はあると思いますが、なんの企みもなく、ただ業界の慣習として続いている場合がほとんどです。
昔はみんなコンテンツを欲していて、なんか面白い本ないかなと本屋さんに足を運ぶ人がいましたが、
本のライバルが恋人からのLINEになってしまった今、いきなり本を店頭に並べたところで、ほとんど興味を持ってくれません。
本VS無数のスマホ上コンテンツでは可処分時間の奪い合いに勝てないわけです。
じゃあ、どうするか。
時間の前に心を奪うのです。
つまり可処分時間ではなく可処分精神をいただくのです。
いきなり出来上がった完成品を世に出して、どう?って言っても多くの人にとっては、知らんがな、です。
いきなり現れて、いきなり時間をいただくなんて甘い考えです。
なんてったって相手は恋人からのLINEであり、身近な人の炎上です。人間というものは自分に近い出来事のほうが気になってしまうものです。
【日常あらゆる場面でタッチする】
可処分精神を奪うには、日常的にタッチするのが必要です。
たとえば毎日毎日家の前でリフティングの練習をするサッカー少年がいて、最初は下手だったその少年が、少しづつ上達。来週の日曜日初めて試合に出るらしい。
ちょっと見てみようかなと思いませんか?
少なくとも、来週日曜日〇〇小学校サッカー部試合に来てくださいというチラシがいきなり入っているよりは見たくなるはずです。
つまり、忙しい現代人のほんの少しの隙間にちょいちょいお邪魔にして、少しづつ心を奪っていくのです。
雑誌「サウナランド」を例にとると、いきなり本屋さんに並んでいてもゼッターイ売れません。
多くの人にとって、知らんがな、です。
しかし、普段から編集長である僕がサウナばっかり行ってるツイートをしたり、取材過程をちょい出ししたりすることによって、少しづつ気になってもらうのです。
【関係人口を増やす】
可処分精神をいただく上で、このコンテンツのちょい出しより重要なことがあります、関係人口を増やすことです。
誰だって、人のことより自分のことのほうが気になります。壮絶な恋愛小説よりも恋人からの平凡なLINEのほうが気になるのは、自分ごとだからです。
なので、できるだけ多くの人の自分ごとにしてもらうのです。
僕がサウナランドでクラファンをやったり、箕輪編集室メンバーと作ったりするのは制作費戦略ではなく、関係者の数を増やすためです。
全国からサウナTシャツを100枚買い集めるという企画は、全国のサウナーさんにツイッターで呼びかけて買い物の協力をしていただきました。カメラマンさんも地方の撮影はその地方にカメラマンさんがいないかツイッターで募集します。
クラファンで支援したり、Tシャツを買ったりしていただくことで、知らんがな、から、これ自分の雑誌と思ってもらえるようになります。
自分ごとにさえなれば、可処分精神をいただけます。そして、その先に可処分時間をもらえるのです。
【読者からファンへ】
SNSによって届け方が変わりました。
上記の届け方は100の型があるうちの2つで、あと98くらいは方法があります。
インフルエンサーといかに絡むか、動画でいかに盛り上げるか、語り始めたらキリがないです。
さらに、このあたりは日々変化するので、同じスピードで習得したい人はぜひ箕輪編集室に入ってください。僕の投稿を読んだり一緒に作業すれば大枠は捉えられると思います。
ここでは、その中で一つだけ大切だと思うことを書いておきます。
【届け方で顧客をファンに】
今日の西野さんのサロンでも書いてありましたが(パクるのが最速)
顧客=商品を買ってくれる人
ファン=商品提供者を応援してくれる人
です。
これからはあらゆる商品、サービスにおいてファンの存在が重要です。深いファンがいるアーティスト、飲食店、ブランドは価格競争や類似品の乱立に影響を受けません。
さらにコロナ禍において、不要不急と判断されたものは切り捨てられた一方で、本当のファンを持ったアーティスト、飲食店、ブランドはむしろ応援され、力を増していきました。
届け方、においてもここを意識することが大切で、顧客からファンにする届け方を意識する必要があります。
【数より深さ】
無味乾燥な段ボールで届くスニーカーより、カッコいい段ボールの中にデザイナーからのブランドコンセプトが書かれた紙が入ったスニーカーが届いたほうが当然気分が上がります。
僕はよく、100冊買ってくれたら講演会をします!みたいなことをやってます。僕のことが嫌いな人はあれを見て、鬼の首を取ったように、箕輪本が売れるカラクリといって騒ぎますが、本質は違います。
たとえばメモ男こと前田裕二さんの一冊目の『人生の勝算』は10万部以上売れてます。100冊で講演会を頑張って20回とかやっても2000冊なので部数的にはあまり影響はありません。
僕はビジネス書は読んで満足では意味がないと思ってます。読んで実際に行動が変わらなければ意味がない。
あの本は、起業や自分の仕事に異常なまでの熱を入れる若者を応援するというコンセプトで書いた本なので、
そういった若者により深く刺して、ただ読んで満足から、行動して人生を変えるまでいってほしいなと思っていました。
だから本に共感した読者に前田裕二さんが直接会って、想いを伝える場が欲しかったのです。
そういった場を通して、2000人くらいの人に会い、話し、ただのビジネス書の顧客から前田裕二のファンになってもらいました。
二冊目の『メモの魔力』が65万部の大ヒットになっているのは一冊目の『人生の勝算』の「ファン」の存在なしにはあり得ませんでした。
【編集者2.0 +】
最後に、ポストコロナの今、アップデートされたなと感じる点を追記し、筆を置きたいと思います。
コロナ前から起こりつつある流れですが、その会社や商品なりのビジョンが消費に大きな影響を与えるようになりました。
このアウトドアブランドで買うと地球がキレイになる、みたいな。
世の中が豊かになるにつれて、自分の欲望を満たす段階から、社会全体の利益に貢献したいという想いを持つ人が増えたのだと思います。
これは本も同じじゃないかなと思っています。
一冊の本が売れた、売れないで商売するのはすごく儚くてもろい。
なによりももうそれではファンがつかない。顧客しかいないサービスは先に書いたように厳しいです。
これからは一冊の本が売れることを通して、世界をどうしたいかまでを設計することが大切でしょう。
今までも、この本が読まれれば世界はこう変わると内容を押すことは一般的でした。
しかし、これからは、世界を実際に変えるまでのビジネスモデル設計をすることまで求められる気がします。
【コンセプトを実現していく】
僕が何となく感じている空気感があります。
今までは、努力して自分を変え、何かを達成することによって幸せになる、達成型の刺激が求められていました。ちょうど僕の編集するビジネス書がバンバン売れていた時期です。
しかし今は、自分ではなく世界の見方を変えるセンスや価値観を持つことで、幸せに気付くという充足型の満足が求められている気がします。
コロナでいつどうなるかわからないという経験をしたことも影響がある気がします。
そんな空気を感じながら作った雑誌「サウナランド」のコンセプトは
【あなたのままで、幸せになれる】です。
一つのレールに乗っかって他者より速く走ることだけが幸せなのではなく、自分の「偏愛」を追求する。それ自体がもう幸せじゃない?っていうメッセージです。
「サウナランド」のクラウドファンディング達成と同時にオンラインコミュニティを作りました。
今日サウナ行く人いませんかー?とか聞く、ありのままでいれる居場所みたいなコミュニティにしたいです。
2月にサウナランドフェスも開催を予定してます。年齢や性別やタトゥーあるなしなどを飛び越えたスーパーフラットなイベントにしたいと思ってます。
また、今サウナ付きペンション(通称ミノペン)も作ってますが、いろんな人が、いびつなままいられる場所にしようと考えてます。
サウナランドが売れれば売れるほど、その収益で【あなたのままで、幸せになれる】と思えるイベントや場所を作ります。
その結果、世界がもっと楽しくカラフルになればいいなと思ってます。
【売れて終わりは終わり】
本も他の多くのサービスや商品と同じように、売れて終わりは終わりにしないとだめなんじゃないかなと思います。
ボルビックの水を買えばアフリカに清潔な水が寄付されるみたいに、その商品が売れることのよって世界がどう変わるかという表明と、具体的な設計までをすることがこれからの編集者に求められていることなんじゃないかなと考えました。
これは、何もきれいごとではなく、出版業というビジネスで生き残るため、顧客、そしてファンに選ばれるための必然的な戦略になってくると思います。
こういったことを考えているので、ぜひサウナランド楽しみにしてください!
一緒に編集者2.0+を目指していくという人は箕輪編集室で待ってます。
ではでは。