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箕輪編集室8月定例会 映画監督 紀里谷和明著『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた 自分と向き合う物語』発売記念対談

映画監督の紀里谷和明さんの著書『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた 自分と向き合う物語』(文響社 8月6日発売)の発売を記念して、紀里谷さんと、編集者・箕輪厚介さんのスペシャル対談が実現しました。
対談では、素直に自分の感情に生きたいという想いを抱きながらも、人目を気にして行動することにためらいを感じている方々へ、紀里谷さんが実体験を交えながら厳しくも温かいメッセージ送ってくださいました。

「恥ずかしい」VS「目立ちたい」

紀里谷:箕輪さん初めまして。今日はよろしくお願いします。

箕輪:こちらこそよろしくお願いします。編集者の間で「今、面白い人は誰?」みたいな話になった時に、いつも紀里谷さんの名前があがっていたので、すごくお会いしたかったんですよ。

紀里谷:ありがとうございます。僕は箕輪さんのこと、時々、ネットテレビとかで拝見してましたけど、直接お会いするのは初めてですもんね。

箕輪:紀里谷さん、ネットテレビ観るんですね!そのイメージ全然なかったです(笑)。

紀里谷:普段はアメリカで生活しているので日本に帰ってきた時は、ネットテレビしか選択がなくて(笑)。そこで、編集者として名の通った人だっていうのを知ってたんですよ。

箕輪:僕の場合は、SNSの影響も大きいですね。

紀里谷:確かに。編集者で箕輪さんほどSNSで積極的に発信している方ってそんなに多くないじゃないですか。理由はあるんですか?

箕輪:僕が営業から編集部に異動した時に衝撃を受けたのは、本って基本全然売れないんだってことでした。重版がかかるだけでみんなが喜ぶみたいな感じで。

紀里谷:そうなんだ。

箕輪:で、本を売るためにどうしようかと考えた時に、ちょうどその頃、日本でSNSが流行り出したのもあって、これ使って話題にするしかないなと。あれやこれやと考えているうちに、結局、自分がインフルエンサーになるほうが早いし、最強じゃんって思ったんですよ。

紀里谷:箕輪さんは、これまでの「編集者」の概念を覆されていますよね。裏方みたいなイメージを超越して、もはや「僕が著者です」って勢いでプロモーションされてるじゃないですか。その点、僕は自分の作品をプロモーションすることに恥ずかしさを感じるんですよ。

箕輪:僕も恥ずかしいと思える人になりたかったですよ。僕なら、「これやったの俺!」ってすぐに言いたくなっちゃう。

紀里谷:最高ですね(笑)。映画の宣伝部に、箕輪さんみたいな人がいてくれたら、僕がどれだけ救われるか。

プロならば、真摯に自らの本分を全うせよ

箕輪:紀里谷さんはプライベートのイメージが全然想像がつかなくて、世間との距離感が絶妙だと思うんですよね。

紀里谷:へぇ〜、そんなイメージなんだね。人にどう見られているかを全く気にしていないので、全然分からないんですよね。

箕輪:人間関係やルールに縛られず、常識の外にいる人みたいな。インタビューを途中退席しちゃうようなイメージ・・・。

紀里谷:それは事実です(笑)。ただ、僕は「本分を全うしている人」に対しては、きちんとルールを守るし、ちゃんとリスペクトもします。でも、本分を全うしていない人とは一切関わりたくないんですよね。

箕輪:具体的にどんな人がいましたか?

紀里谷:それこそ、インタビューなんかでも、こっちは真摯に質問に答えようとしているんだけど、その内容がもう何千回と答えてきた質問だったり、ただ自分の質問を投げつけてくるばかりで全然こっちのレスを拾わなかったり。小学生の社会見学とかだったらまだしも、プロなんだったら「ちゃんと本分を全うしろよ!」って。

箕輪:めっちゃわかります。表面的というか、ただ右から左に流すように仕事をされると、「こんなの嘘じゃん」ってなりますよね。

紀里谷:そうそう。僕はそれが許せないんだよね。人と関わるんなら、腹くくってやろうよって思う。

箕輪:今回の紀里谷さんの著書を読んでると、主題はまさにそこだと思うんです。深く自分を見つめて、「お前は何者なんだ」という問いを自分に突き刺していくという作業が必要になっていくのかなって。

紀里谷:まさにそうですね。

箕輪:ビジネスの世界でも、2・3年前は「誰が先に時代の波に乗るか」っていう流れが強かったと思うんですけど、今となっては波に乗っても結局「あれって何だったの?」って僕自身がなってしまったんですよね。そういう意味でも、僕の中でめちゃめちゃタイムリーな本だと思ったんです。

欲求を満たしても満たしても襲いかかる焦燥感

紀里谷:若い頃って、いろんなものに憧れるじゃないですか。自分が持ってないものってすごく輝いて見えるし。

箕輪:まさに、その通りです。

紀里谷:それがお金であり、地位であり、名声であり、自分が持ってないものって輝いて見えるんだけど、でも実際に手にしてみると、全然自分を癒してくれない。

箕輪:そうなんです。僕も最初の頃は、ちょっとテレビ番組に出演しただけで「おれ、テレビに出てるよ」って驚いていたのが、気付いたらタモリさんやたけしさんの番組にも呼ばれるようになって。次々にステージがあがっていく感じで。飛行機なんかの移動もシートのクラスは上がるし。でも、幸せの指数が上がっているかというとそうでもなくて、ただ上がっているという感覚でした。でも自分からは降りられないんですよね、そのステージから。

紀里谷:そうなんだよね。僕自身も、高級住宅街に住んで、ハリウッドで映画を撮って、目標にしていた俳優さんに出演してもらって、ありとあらゆるものを手に入れて欲求は満たされているはずなのに、ものすごい焦燥感に襲われて。自分の心の中に全然、平穏が訪れなかった。

箕輪:世間から見れば圧倒的な成功を収めているのに……。

紀里谷:手に入れれば満たされると思ってた解決策が、実は違うという事実を突き返されたんですよね。苦しかったですよ。でもね、ある日、突然、幸せを感じる瞬間があったんですよ。僕は農場で鶏を飼ったり、野菜を育てたりしてるんですけど、そんな日常の中で、突然「おれ幸せだなー」っていう感情が溢れてきた。

箕輪:世間が求める欲望的なものを剥いだら、楽になったんですかね?

紀里谷:きっかけとか理由は本当に分からないんだよね。ただ、自分の無意識の中で、ふと訪れた感覚っていうのか。意図的にアクセスできないんだけど、確実に自分の内側で何かが動いていて、そこにアクセスできた時に今までにない充足感に満たされたんですよね。

箕輪:僕自身も、ステージが上がっていったのにそこまで幸せじゃないって矛盾を抱えていたんですけど、今はそのステージから降りて楽になって。

紀里谷:その若さで気付けたって素晴らしいことですよ。これから箕輪さんからどんななものが生まれてくるか楽しみです。

子供の心で「感じる」ことを忘れた人が足を引っ張り合う

箕輪:紀里谷さんの本では、一人の人間に内在する「大人の心」「子供の心」について書かれています。周囲の価値判断をもとに打算的に動く「大人の心」と、素直な感情に根ざして動く「子供の心」。僕は子供の心満載で生きているので、世間から叩かれたり、批難されたりするんです。「大人の心」とはイコールじゃないかもしれないけど、今の世の中って、人としてかくあるべきみたいな表面的な正義感が異常なまでに押し付けられてるじゃないですか。そこから少しでも外れると、SNSやワイドショーで袋叩きにされてしまう。

紀里谷:戦時中の日本で起きたロジックと似てますよね。ちょっと横文字を使っただけで、「お前は非国民だ!」って始まる。僕は、感じて・考えて・動くという一連の流れをすごい大切にしているんですけど、特に「感じる」ということを重視してて。自分の心が感じたものを発露として、考えて、行動に移していく。それをきちんとやっている人間が事を成すわけです。でも、今は「子供の心」で感じることが許されない世の中になっているんですよ。

箕輪:本当にそうですよね。感じたらダメだっていう風潮が強すぎる。

紀里谷:そんな中でも唯一許されている感情が「怒り」なんです。歪んだ目でしか物事を見ず、子供の心で「感じる」ことを放棄した人間が、自分ができなかったことをしている人を見て、怒りをぶつけるっていう図式になってしまっている。

箕輪:まさに。僕が楽しそうに遊んでいると、めちゃめちゃ怒られるんですよ。「俺はこんなに苦労してるのに」「こいつ絶対許さない」って。

紀里谷:そういう人たちって、不安と恐怖という感情に動かされていて、喜びみたいなものがないんですよ。だから、喜びを感じている人たちが憎くてしょうがない。そういう人がいるって結構悲しいことで、その風潮を逆転させないといけないと思っています。

箕輪:このままでは怒りだけが蔓延して、楽しんでいる人は他人にバレないようにするしかなくなりますよね。自分の心に正直な人が損する世界になってしまう。紀里谷さんは「日本で内戦が起きている」って言われてるじゃないですか。まさにそうで、今は怒りをぶつけてくる勢力が巨大になりすぎている。

紀里谷:今は僕らみたいな「子供の心」をもった人たちがマイノリティではあるんだけど、実は隠れて表に出さないようにしているだけで、正直に生きたい人はいっぱいいると思っているんです。

箕輪:絶対いますよね。

紀里谷:その人たちが、自分なんかが自由に生きたら怒られるんじゃないかって、感情を押し殺してるんですよね。でも、それって誰に怒られるのって思うの。誰目線なのかって突き詰めると、結局誰の目線でもなくて、自分の目線なわけじゃないですか。そういう思い込みをひっくり返していけば、今の風潮も変わると思うんですよね。

箕輪:まさにその通りですね。今の風潮は、これまでの教育や社会の空気感がつくり出した弊害でもあるんですけど、10代の若い子たちと接していると、純粋に夢を叫んだり、夢を叶えるために貪欲だったり。絶望に冒されてないからピュアでポジティブなんですよね。でも絶望を経験して折り合いをつけてしまった人は、純粋に感情に生きている人がいると、自分の人生が肯定されないわけですから、なんとか引きずり落とそうとする。悲惨な構造ですよね。

紀里谷:今、当たり前のようにバッシングが飛び交う日本のいびつな現象って、法律でもなんでもなくて、要はみんなが作り上げた風潮なわけじゃないですか。この風潮を生んでいる人たちにどうアプローチしていくのかを考えていかなきゃいけないし、そっち側ってダサいよねっていう風潮を作りあげていかないとだめなんですよね。

根拠のない不安に臆病になるな

箕輪:これまでいろんな本を編集してきて、ライトな漫画のビジネス書を作ったこともあるんですけど、それがビジネス書通の人たちから見事に批難されて。でも、僕が本を届けたかったのはその人たちじゃなくて、地方のショッピングモールで「人生変えたいなー」って思ってる人や、世間からバカにされるようなことを本気でやろうとしている人たちなんですよね。インテリじみた言葉を並べて未来を語っているような人たちだけでは、世の中は絶対に変わらない。

紀里谷:その通りですね。インテリ層、エリート層の人たちってビジネス書を読んで知識は吸収するんだけど、なかなか行動に繋がらないことが多いんです。だから、僕が今アクセスすべきなのはいわゆるヤンキーと言われてるような人たちなんですよね。

箕輪:分かる気がします。

紀里谷:彼らはピュアだし、メチャクチャ行動力ありますからね。知識や情報が伝わっていないだけだから、彼らに何を訴えるかが重要で、僕がやるべきことだと思います。

箕輪:僕も社会的に見て偉いような人に「いい本ですね」って言われるより、ヤンキーみたいな人に「本読みましたよ!」って言われたほうが嬉しいです。

紀里谷:YouTubeなんかは全盛期で、面白いコンテンツはたくさんあるわけだけど、実際に情報を届けるとなると、彼らの行動に影響を及ぼすことができるコンテンツを作らないといけないですし、絶対に作れると思うんですよ。

箕輪:紀里谷さんは作品を作られる際に、自分なりの思いやメッセージを反映させたりするんですか?

紀里谷:反映させますね。作品ごとにそれぞれの思いがありますが、なぜ戦争が終わらないのかという怒りだったり、人間が持っている残酷さだったり。次の作品「新世界」でも、世の中の既成概念を破壊して、ひっくり返したいという思いを込めています。

箕輪:映画を作りあげるって、とんでもないマグマが滾っていないとできないと思うんですけど、そこが乾かずにやり続けられる原動力って何ですか?

紀里谷:僕の場合は不条理への怒りなんですよ。不条理があること自体にもそうですけど、不条理に対して、なんで黙っているんだ、なんで動かないんだ、という怒り。クリエイティブに対する不条理もそうですが、僕には、映画の作り方を根本からひっくり返せるという自負があって、それが一種の活力にもなってるんですよ。でも、それを意識してやっているというわけではなくて、自分を超越した何かに動かされている感じですかね。

箕輪:使命感でもなく、自然に動いているんですね。少し話は変わるんですが、本の中では「生きるための最低限を知る」という内容がありますが、これすごく共感しました。お金がなかった頃、公園でチューハイだけ飲むような生活をしていた時期があったんですけど、全然不幸じゃなかったし、その生活に戻ることになっても別にいいかって思えるんですよね。

紀里谷:そう思えるのは強いですよね。チャレンジして失敗しても、たいしたことないじゃんっていうマインドですね。結局、根拠のない不安で臆病になってしまうのが一番もったいないことだから、まずは何が不安なのか、そもそも本当に根拠があるのかを知らなければいけないんですよ。

箕輪:いろんな人と仕事をしていても、最悪、自分が思うことを貫いて嫌われたり仕事がなくなったりしてもいいやって思えるのは、全部失ってもまた公園からスタートすればいいって思えるからなんですよね。

紀里谷:嫌われるとか気にしてもしょうがない。相手を怒らせたとしても、別に殺されるわけでもないし、ただ仕事がなくなって、友達がいなくなるだけ。むしろそんな取引先ならこっちから願い下げだし、友達でいる必要もない。

箕輪:嫌われるのを我慢して窮屈な思いをしている人もいると思うんですけど、そうなるくらいなら嫌われた方がよっぽど楽なんじゃないですかね。

紀里谷:本当ですね。昔、カメラの撮影してた時、クライアントにいろいろ言われたら、カメラ投げて、「もういい」って帰ってましたもん。

箕輪:「帰る」っていいですね(笑)。

紀里谷:帰るってすごく平和ですよ。殴らないんだもん。ハハハ。帰る人が増えれば、結構世の中、良くなるかもしれない。

箕輪:でも、それくらい自分の気持ちに正直に生きれば、今の偏った日本の風潮も変わっていくのかもしれないですね。

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バナーデザイン/こぶさん

編集/斉藤嵩
校正/大村祐介

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