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「デザインって編集だ」 一冊の本に込めたデザインの力 #ギフトのあけ方

#前田裕二と本作り プロジェクト。タイトルもテーマも未定の状態から「24時間で本を作る」というプロジェクトは、ライターだけでなくデザイナーにとっても前代未聞の挑戦でした。

当日制作した和綴じ本、そして2020年1月10日(金)に一般発売された単行本と、二つのブックデザインをまとめ上げ、プロジェクト全体を通して唯一無二の役割を担ったデザイナー・安村シンさんにお話を伺いました。


デザイナーにも色々なタイプがいると言う。
シンさんは、驕らない、固執しない。
誰よりも血まみれになってやり遂げ、
それでも、
「中身を読んでほしい」と言って笑った。

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最高のタイミングで掴んだブックデザイナーの役割

ーープロジェクトメンバーとして声をかけられたときの状況を教えてください。

声をかけられたのは収録の3日前でした。Facebookをひらいたら突然、プロジェクトリーダーのさよさんからメッセージが来ていて、「ブックデザインができる人を探しています」と言われたんです。

これだけ大きなプロジェクトなので、すでにデザイナーは決まっているのだろうと思いました。「どなたかのアシスタントかな?」などと推測しながらも、「どちらにせよ面白い、チャンスだ」と考え参加を決めました。

ーーブックデザインはもともとされていたんでしょうか。

実は、このプロジェクトが始まる1週間前に初めてのブックデザインを終えたばかりだったんです。1週間違えば参加できなかっただろうから、すごく良いタイミングでした。

「ブックデザイン」と一言で言っても、それはたくさんの行程を踏む複層的な作業を意味します。
表紙のデザインはもちろん、中身についても、上がってきた原稿の流し込み、本文のレイアウトや見出しのデザイン、カメラマンと連動しての写真セレクトなど、やらなければならないことは多岐にわたます。

そんなブックデザインは、僕にとって憧れの仕事でもありました。フリーランスになってやりたいことリストのかなり上位に入っていましたから。

ーー収録当日の制作方法と同じ“和綴じ”の本がもともとご自宅にあったとか。

そうなんです。たまたま和綴じの古い本が家にありました。現物を見ることができたので、デザインのイメージはしやすかったですね。それまでは、まさかそんな古い本が役に立つなんて思っていなかったですけれど(笑)。

収録当日まで事前の打合せはなく、関係者の面々を見て、自分の役割が二番手のアシスト役ではなくメインのデザイナーだと察しました。

これはやばいな、人手が足りなさすぎると思い、デザインチームのみんなに声をかけてメンバーを募ったものの、表紙デザインや文字の流し込みなどの役割分担を決めることくらいしかできないまま、当日に臨むことになりました。

みんなの頑張りを形にする、覚悟の当日

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ーー当日スタジオに入られたときの心境を教えてください。

ライターチームは朝からフル稼働でしたが、僕たちの仕事は原稿ができてからが本番。夜通しハードな作業になることを見据えて午後からニッポン放送のスタジオに入りました。
当日になっても決まっているのは「和綴じ」で「24時間の放送中に一冊作る」ということだけ。テーマも決まっていない状況なので、表紙について写真素材を使うかもしれないし使わないかもしれないという、本当に手探りの中収録が始まりました。

まだしばらく原稿が上がってくる気配はなさそうでした。何かできることはないかなと探したときに、「和綴じできる人がいない」と気がついたんです。
そこで、本番を想定して作った仮デザインを印刷所で印刷し、試作品を作りました。当初は箕輪さんが和綴じをする予定だったので、作り方を教えられるよう、手が空いている人にYouTubeでやり方を研究してもらいました。
結局箕輪さんは磯丸水産に行ってしまったので、自分たちでやることになったのですが(笑)。
でも今になって考えると、このとき練習しておいて良かったと思います。

ーーファインプレーですね。当日に練習用の表紙を作って、和綴じのやり方を習得して、試作品を作ったんですね。

そうなんです。本番で使う紙をどれにするかのサンプルも兼ねていたので、「パッと作った仮デザインですけど」と伝えてスタジオにお渡ししたのですが、なんとそれが放送でSHOWROOMのリスナーさんにお披露目する流れになってしまって。
本当にただの四角で囲った中に仮タイトルがあるだけのデザインだったので、かなり焦りました。全国ネットに配信されるなんて、「うわ〜、恥ずかしい〜」って(笑)。

しかも、それを見たリスナーの方からどんどんコメントが来るんですよ。「おじいちゃんちにある古い本みたい」とか。もう、「そうですよね、すみません」と内心泣いていました(笑)。

だけど、リスナーの方のリアクションを目の当たりにして、これは頑張らないとまずいぞ、と覚悟が決まりましたね。

良いか悪いかが、ダイレクトに返ってくる。絶対に恥ずかしいものは出せないんだと肌感覚でわかって、異常な緊張感が生まれました。

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ーー事前に役割分担を決められて計画的な印象を受けましたが、当日、焦りがあった場面はあったんでしょうか。

18時くらいの段階で、間に合わないかもしれないと本気で思いました。
タイトルが決まるのは21時の予定で原稿もこない中、単行本と同じ写真素材を使うことができないのがわかって、「あ、本当にゼロから作らなきゃいけないんだ」と驚くと同時に、これは大変なことだぞ、と焦りました。

タイムリミットは朝の5時。スケジュールを逆算してみると、これはみんなで土下座もあり得るな、と思いました。

本のタイトルが23時半に決まり、夜中の2時くらいにようやく原稿がどっと上がってきて、みんなで手分けして猛スピードで作業していきました。間に合うか間に合わないかわからない中でとにかく無我夢中でやる、そんな感じでした。

良いものを作らなきゃいけないけれど、急がなきゃいけないというプレッシャー。こんな状況でデザインした経験はほとんどないですが、自分たちのできる範囲でベストを尽くそうと必死で挑戦していました。

表紙デザインのクオリティって、みんなの24時間の頑張りの「顔」になるものなんです。だから手を抜けないと思ってやっていました。
もし表紙がイマイチだったら、この企画自体がイマイチだと思われてしまうかもしれない。全プレッシャーを背負うポジションだと自覚していました。

時間もないし、正解かわからないし、そもそも自分の能力で足りるのかという不安もありました。こんな大きな企画のデザインを自分がやり遂げられるのかと。

ただ、僕一人だったら不安なままでしたけれど、責任重大な表紙デザインの方向性を仲間と一緒に探ることができたおかげで、良いデザインに多方向から近づくことができたと思います。

みんなブックデザインの専門家ではなかったし、デザイナー歴も人それぞれでしたが、役割を全うしようと頑張ってくれました。「できることはありませんか」と自ら言ってくれたり、夜中に「今から行きます」と言ってくれたりして、本当に助けられました。

まさに、「できない理由を探すよりできる方法を考える」という状態でした。
デザインリーダーとして、みんなを焦らせてはいけない、せめて暗い雰囲気にならないようにしなきゃ、と意識するのが僕にできたことでした。みんなの頑張りのおかげで、もしかしたら間に合うかもしれないという希望が見えてきました。

気がつけば走りきっていました。
精一杯やったけれど、100%完璧にできたわけではなかったので、終わった瞬間は本当に悔しくて。もっとできた、という思いがありました。
でも、みんなのチャレンジが形になったことは素直に嬉しかったです。

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スタジオを出るときは、異常なくらいの悔しさと、でもめちゃくちゃ楽しかったという気持ちと、本当に良いプロジェクトチームだったな、という色々な感情が入り混じっていました。

細部まで妥協せずこだわり抜いたデザインの完成

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ーー収録のあと、単行本の制作のためにまた新たにデザインをされたんですよね。

はい、単行本の表紙デザインもしました。さらに、和綴じ本と単行本ではサイズが違うため、本文のデザインも変更しました。

当日の悔しさがあった分、収録後のデザインには妥協したくなかった。
完璧なものを出してやる、という気持ちがありました。それは、ライターのみんなも同じだったと思います。

ブックデザインは少し文字数が変わっただけでも行の調整が必要になってしまうことがあるので、校正が増えると、それなりに大変なんです(笑)。でも、ライターのみんなの熱い想いを感じて、「その熱意受け止める!」という気持ちで対応していました。

もう発売スケジュールは決まっていたので、短い時間の中でやることはたくさんありました。大変だったけれど、ライターのみんなの想いを受けて、僕たちデザイナーが無理だなんて言っている場合じゃないと思って走っていましたね。

ーー今回、対談ゲストの一人でもある蜷川実花さんの写真を使って単行本の表紙デザインをされて。

はい。正直、こんなことってないですよ。一流デザイナーでないと任せてもらえない仕事です。
写真を邪魔しないように、と思ってデザインしたものの、その影響で全体のバランスが悪くならないように、上部に「How to Open Your Gift」という英文を入れるなど工夫しました。

2回の色校正(テスト印刷)で蜷川さんのチェックを受けて確定しなければならなかったので、蜷川さんの写真を活かしながら本としてどうしたら魅力的に見せられるか、表紙の字体や文字の色にまで趣向を凝らしました。何度も試し印刷をして、チェックしましたね。

1回目のチェックで「もうちょっと鮮やかに」と指摘があったので、可能な限りブルーを鮮やかに出せるよう、印刷所へ直接掛け合いました。
印刷所の方も蜷川さんの写真なので驚いていましたが、とても親身になって相談に乗ってくださって。それに本当にたまたま、印刷所の方も当日放送を聞いていたということだったんです。

そんな不思議なご縁の中、通常では到達できないレベルの鮮やかさに仕上げていただけました。さらに加工にもこだわり、光沢のある加工とマットの加工、両方のパターンを作って蜷川さんに見ていただいたんです。

結果は、マット加工が選ばれました。予想以上に良くできて、ホッとしています。
マット加工の方が落ち着いた印象になり、この本のタイトルや前田さんの気持ちとも合うと思っていたので。

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ーー蜷川さんや箕輪さん、前田さんからも即OKが出たと伺いました。他にもきっとたくさんのこだわりが散りばめられていますよね。ぜひ教えてください。

OKが出たときは素直に嬉しかったですね。
細かいこだわりは話せばキリがないのですが(笑)、例えば裏表紙のデザインは、帯のかかった状態の見栄えを考慮してSHOWROOMのロゴを全体の少し上のほうに配置しています。
本体の表紙はブックカバーと同じ紺色にして、ブックカバーを外しても本の雰囲気が変わらないように工夫しました。

あとは、24時間以内に購入してくださったリスナーさんたちのTwitterアカウント名が入っているSPECIAL THANKSのページ。顔文字に使われている特殊文字をどうすれば再現できるのか研究して、一文字ずつ字体を変え、できるだけ忠実に実物に近づけました。

ーー絵文字は一文字ずつ字体を変えていたんですね、すごいです。

アカウント名って、それなりの思いがあって入れているんだと思うんですよ。そういうリスナーさんたちの思いを大切にしたかった

放送終盤でも13万人もの方が見てくださっていたんです。実際にリスナーさんたちの案で本のタイトルを決めて、表紙に使う写真も選んで。前田裕二さんはずっと、リスナーさんたちと一緒に作る本だとおっしゃっていました。自分もその通りの感覚で、だからこそリスナーさんたちの思いを無下にはしたくなかったんです。

オンラインサロンでデザインする意義

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ーー職業もデザイナーであるシンさんですが、あえてオンラインサロンに所属してデザインに携わる理由を教えてください。

オンラインサロンでの活動を通して本職のデザイナーとしてもすごく貴重な経験を積むことができていると感じています。

「仕事だったらやらないけど」っていうのがポイントだと思います。
先ほどの、一文字ずつ研究して字体を変えるなんて、仕事ではまずやらない。
でも、そこまでこだわれるのがオンラインサロンの良いところだと思うんです。
そうやってこだわり抜くと、限界を超えたところに新たな境地が開ける気がして。

仕事っぽくやってしまうとみんなの熱量が伝わらないんですよね。
今回、仕事ではない貴重な経験だったからこそ、自分に限界を設けてしまいたくなかった。だから、予算とか時間とか、そういった制限の上限に触れても「まだできる」と自分を奮い立たせていました

そういった制約ばかりに気をとられて妥協することに慣れてしまうと、デザイナーとしての心が死んでしまうんですね。それって必ず受け手に伝わりますから。

あとは、自分一人でやるよりもチームでやる方が断然すごいものができるんだな、というのも今回のプロジェクトを通して学びました。
これまでスピード重視で全部一人でやってしまうことが多かったのですが、クオリティの面でも、多くの人のひらめきを取り込めるという面でも、その効果を実感しましたね。

こんなに熱量高くやり尽くした感覚は、久しぶりに出会ったなという感じでした。
色々な感情を味わった、確実に一生忘れられない経験になりました。

デザインを通して届けるものは

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ーー今回のプロジェクトや普段のお仕事でも、自分のデザインを指摘されるのは嫌ではないのでしょうか。

僕の場合、それは全然思わないですね。
今回、表紙デザインを決めるときに箕輪さんにフィードバックをもらったんですが、的確な指摘をいただいてすごくデザインが良くなったんです。改良したデザインを箕輪さんにお見せしたら、それでもう大丈夫だと言っていただけた。
そうやって、この方向で良いという言葉をもらえたから、迷わずに進めました。ゴールの可能性が見えたそのときは、とても嬉しかったですね。

僕は、デザインすることで伝えたいことがより正しく伝わる方が良いと考えているんです。
要は、デザインと編集って同じだと思うんですよ。

ブックデザインは、本で言いたいことを編集して、形にするっていうことですよね。
みんなが納得して、より良く内容が伝わるデザインにしたい。だからその目的に近づけるフィードバックを受けることは、全然嫌じゃないですね。

ーーシンさんが思う「良いデザイン」とはどんなものでしょうか。

ケースバイケースですが、基本的にデザインが必要なときって、何か伝えたいことがあるときだと思うんです。

だから、目的に対してちゃんと打ち返せるデザインが良いデザインなのかなと思います。今回だってチャリティーという名目があるのに金ピカの表紙デザインだったらおかしいじゃないですか。

その一方で、ただ説明しているだけになってしまっているデザインって感動がない。見た人の心を動かせなければ意味がないので、正しいんだけど面白くないっていうデザインは目指したくないと思っています。

だから、自分が心から良いと思えて、かつ目標にも打ち返せているというデザインを世に出したいですね。

そして今回一番大事なことは、この本は本当に良い本だということです。特に、やりたいことに向かって頑張っている人にぜひオススメしたい。色々な道で成功しているすごい人たちが、等身大で語ってくれている内容を存分に吸収してもらいたいです。

きれいなデザインだと言って大切に取っておいてくれるのも嬉しいですけれど、アート作品ではなく本だからこそ、本棚に並べるだけではなく、ぜひ何度も読み倒してほしいんです。
中身がめっちゃ良い話だから、デザインも頑張れるんです。


ーーこれ(単行本『ギフトのあけ方』)は、良いデザインですか?

最高です。間違いなく。

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関わったみんなの想いを形にしたデザイナーのエピソード、いかがでしたか。

前代未聞の挑戦に奮闘する中で、ご自身でも新たな境地を見出したシンさん。

たくさんのこだわりが詰まったこの一冊、ぜひお手に取ってみてください。
きっと、あなたのギフトもひらくはずです。

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●特設サイト : SHOWROOM社長・前田裕二さんの24時間を振り返る

●特設サイト : 箕輪編集室プロジェクトメンバーの24時間を振り返る

*プロジェクトリーダー・さよさんのインタビュー記事はこちら!

*プロジェクトメンバーの体験記はこちら!

取材・執筆:大西志帆
撮影:柳田一記
バナーデザイン:川端康介


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