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宇野常寛氏が語る、「箕輪編集室」以降の出版②

※こちらの記事は、2017年12月4日に放送された宇野常寛さんのインターネット対談番組〈HANGOUT PLUS〉に箕輪厚介がゲスト出演した回の書き起こし(一部加筆修正有り)となっています。

宇野:箕輪さんはなんで幻冬舎に行ったんですか?

箕輪:僕は双葉社で見城さんの本を作って、それがそこそこ売れて「箕輪来いよ」って(見城さんに)言われて。そのとき、双葉社の人と圧倒的に見城さんの熱量が違った。僕が最初の(編集した)本が見城さんだったから、最初に見た人を親と思うみたいな感じで、見城さんの熱量で編集をやってたんですよ。

広告とかも、無理だって営業とかが言うことも、「いや、無理じゃないでしょ」みたいな。見城さんも、「営業が無理って言ってます」って僕が言ったら、「お前双葉社の営業に言っとけ。無理はな、突破するためにあるんだよ!」って。

宇野:いやぁ、見城語録来たなあ(笑)。

箕輪:で、あとパブラインっていう、全国の紀伊國屋書店で、今日どれだけ売れたかっていう編集者とか営業が指標にしている数字があるんだけど。あれ、21時くらいに閉まるんですね。でもその後、誤作動っていうかちょっと数字が加算されて1とか2アップするときがあって。

49で終わった日に見城さんが電話で「箕輪、今日49だったな。50乗んなかったな…」ってすごく落ち込んでて。でも2時間後くらいにまた電話がきて、「おい、50になったぞ! 1プラスされたぞ!」ってめっちゃ喜んでたんですよ。

あんなに何百万部も作り続けてきた人が1冊売れるってことにこんなに狂喜乱舞できるっていう、その異常性に僕はこの双葉社っていう生ぬるいところにいたら本当にダメだなってピュアに思って幻冬舎に行こうって思いました。

宇野:箕輪さんそれちょっといい話すぎない?

箕輪:いやでも本当に。なんだろうな、よく言うのはサッカーの海外で一回やっちゃうと、Jリーグのプレッシャーの弱さ嫌だみたいな、そんな感じですね。

宇野:いや、あの箕輪さんね、最後の一言は俺本音だと思うんだけど、その見城さんのいいエピソードとかは多分それ外向きの言葉であって。

箕輪:あー、そんなことないですね。

宇野:いや、箕輪さんやっぱり幻冬舎行きたかったんだと思うの。だって幻冬舎だけ違うルールで商売してるじゃん、明らかに。今の出版で。そこでやりたかったんでしょ。

箕輪:あ、でもそこそんな意識してないですね。

宇野:でも、俺そう思うわけ。元々出版って僕の考えではすごく小商いなわけですよ。

箕輪:うんうん。

宇野:普通の出版社って1000円くらいのものを数千から1万部売ってるわけですよ。だから実は経済規模的にっていうか、商売のスケール感覚的にお好み焼き屋さんとかにすごく近いわけ。

箕輪:うわぁ、面白い。確かに。

宇野:実際そうで。

箕輪:あぁ、俺もお好み焼き焼いてるって思おう。

宇野:いや、だから箕輪さんが作ってるようなベストセラー系のビジネス本って違うかもしれないけど、ほとんどの本ってそうやって作られていて。時々神風が吹くと、めっちゃ売れるお好み焼きができる。

そうすると粉ものだから増刷したらもうほとんどお札刷ってる状態になる。原価全然かからないから。

箕輪:なるほど。面白え。

宇野:それでもってる業界じゃない。基本的に出版って。そこにあの角川騒動がまずあって、(角川)春樹・歴彦のケミカルな力の絡んだ社長交代劇があって、そのどさくさに見城徹がばーんと角川出てくると。

今思うと見城さんがやったのは、そのお好み焼き的な小商いでしかない出版のルールを変えるっていうこと。

箕輪:まさにまさに。

宇野:そうでしょ?

箕輪:あ、でも僕それ転職するときは意識してなかったですね。ただ、広告部のとき、僕はそういう人間だったんですよ。要は売れないギャル雑誌の広告営業やってて、もう業界でも、ギャル雑誌の中でも一番売れてないから反響もないんですよ。じゃあそのギャル雑誌の価値は何かって考えたら、クライアントにとっては反響じゃなくて読モと飲みに行けることだったりした。僕の中では広告ではない手段でクライアントを取るしかなくなってきてて。

もう何でもアリになってたときに与沢翼から3000万くらい引っ張って雑誌一冊作らせて。それは3万部作って完売したんですごく儲かったんですよ。っていうノールールでやっていたので。でも双葉社もそういうの許してくれるくらいノールールの会社だから、窮屈さは感じてなかったな。

宇野:でも逆に見城さんってそういう商売以外許さないじゃん。つまり1000円くらいのものを数千部やるようなお好み焼きみたいのじゃ絶対ダメなんだと。なので、もうめっちゃ原価率とか高いんだけど、ミニマム1万部みたいな本以外基本認めないってうのがやはり90年代の幻冬舎で。

で、彼が何やったかというと、テレビを中心にとにかく有名人に本を書かせると。しかも書き下ろし。で、その本人は見城さんがひたすら飲んで口説く。

箕輪:まさに。会食で。

宇野:そう。で、これがね、当時すごくやっかまれたと思うんだけど、やはり出版ビジネスのスケール感をまるごと変えたわけ。このやり方だったら1冊あたりすごくたくさんお金かけられるようになるし。

箕輪:なるほど。

宇野:何でみんな連載をまとめて本にするかというと、原稿料を払わなきゃいけないからだよね。印税だけだと作家が食えないから。そもそも企画の前提となっている部数がでかいから印税もたくさんつくんで、書き下ろしでいいっていうふうに変えちゃったのが見城さん。

箕輪:へぇー、そこまで言語化してなかった。

宇野:いや、本当にお好み焼きからコース料理みたいに変えちゃったのが見城さん。

箕輪:それ喜びますよ見城さん。

宇野:だから俺、幻冬舎ってそれだと思うわけ。みんなお好み焼き焼いてるのが出版だって思ってたのが、見城さんがコース料理にしたんだよ。金かけていいんだと。その代わり、最初から大部数以外刷らないんだってのが見城さん。

箕輪:いやぁ、喜ぶ。今朝電話かかってきて「お前宇野と対談するらしいな」って言われて。「現代の評論家であいつ以外全員偽物だよ」って(笑)。

宇野:うわぁ、嬉しいな。嬉しいけどちょっと怖いよなぁ、逆にこれ(笑)。

箕輪:そうなんですか、って言ったら、「そうだよ。あいつ、あいつが特に偽物だ。あいつ、あいつ。うーんもういいや」って言って電話切られた(笑)。あいつ誰なんだってすげぇ思ったけど(笑)。

宇野:やっぱり見城さんってその出版の長い歴史の中で、多分唯一そのレベルでの商売のスケール感みたいなところを変えた人。

箕輪:そうですね。昨日Abema TVに幻冬舎の3トップ、見城徹と、村上龍さんとか担当してた石原さんと、GOETHEの編集長の立野さんが出てまさに黄金期の話してて。世の中に対するスケールが違うなってめっちゃ思いましたね。もう何百万部売れて、映画化してどうのこうのみたいな。

宇野:そう。

箕輪:僕がいま騒いでワーワー言ってることのインパクトの小ささがちょっと恥ずかしくなったから、スケールでかく予定調和じゃなくむちゃくちゃやろうと思いましたって見城さんにLINEで言いましたよ、昨日。

宇野:ただまぁ見城さんが当時そういう暴れ方できたのはやはりテレビの時代だったからですよ、はっきり言うと。テレビ有名人を口説いて書き下ろしをやれば、ミニマム1万とか2万でやれる。

箕輪:そうですね。

宇野:そうすると出版が全然変わる。

箕輪:見城さんくらいしか本当の人と人とのパイプを持ってなかったってことですね。

宇野:そう。だからあんなやり方って実は当時しかできないし、テレビ有名人に本書かせれば絶対に1、2万出たっていう時代しかやれないし。

箕輪:今全く売れないですからね。テレビ有名人が書いても。

宇野:そう。やっぱり見城さんの人脈があって初めてできたことだしさ。その上で、じゃあどうするのかということを考えて、なんかこう見城以降のプレーヤって出てこないと思っていたところに出てきたのが、僕にとっては箕輪厚介だったわけですよ。

箕輪:いやぁ…それ僕言っていいですか? これ誰にも言うなって言ってサロンに投稿したんですけど、めっちゃ嬉しくて。見城さんに「箕輪、こんなこと言うのは避けたいが箕輪はすごいよ。昨夜も堀江と箕輪の話で盛り上がった。とにかく箕輪と新しい幻冬舎を作ろうと思う。箕輪以前と箕輪以後。これからの幻冬舎は箕輪に懸かっている。僕も箕輪以後を全力疾走する」ってメッセージもらって。

宇野:ちょっともう大絶賛じゃん。

箕輪:すごくないですか?

宇野:いや、でもこういった視点から見ると、出版っていうゲームを切り替えたプレーヤーって、見城徹から箕輪厚介まで出てないよ。

箕輪:これ映画(箕輪大陸)撮ってる!?

宇野:あ、ここ大事だよ!

箕輪:(笑)ありがとうございます。これ推薦文にしていいですか?

宇野:推薦文にしていいし、あと予告編で今の俺の今の名言を使うべきだよ(笑)。なんだったらもうちょっと格好よく言い直してもいい。

箕輪:やったー(笑)。売れる。売れるわ、これ。

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編集者 箕輪厚介を中心に、魅力的なコンテンツをプロデュースし、世に放つクリエイティブ実行集団こと「箕輪編集室」の定例会ゲストに、ついに評論家・宇野常寛さんがご登場!

紙の書籍・雑誌など旧メディアの生き残り方から、広義のメディアの未来まで、時代を読み解く二人の編集者が熱い議論を交わします。また既にネットで話題を呼んでいる、落合陽一さんの新刊『日本再興戦略』秘話についてもいち早く語ります。

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