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箕輪編集室11月定例会【箕輪厚介×宇野常寛 〜なぜ今、雑誌なのか?〜】

 出版業界の中でも急激に下降していると言われる雑誌市場。2020年の1年間に休刊した雑誌は100近くを数え、雑誌ビジネスの見通しは険しい。
 そうした時勢の中、あえて雑誌の刊行に乗り出した二人がいる。
 評論家・宇野常寛さんが編集責任者となり、創刊した雑誌『モノノメ』
 編集者の箕輪厚介さんが編集長を務めたサウナ雑誌『サウナランド』。
 両誌ともに、クラウドファンディングで圧倒的な支持を受け、出版が決まった。
 なぜ今、雑誌を発刊するのか。時代をクールに捉える両氏の本音がぶつかり合う。

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箕輪:『モノノメ』の出版おめでとうございます。

宇野:ありがとうございます。いやー、おかげさまで、なんとか創刊できました。

箕輪:この雑誌を手にとって(製作の)大変さがすぐにわかった。

宇野:死ぬほど大変だった。もう2度とやりたくないレベル(笑)。

箕輪:でもこれ、定期刊行にしてるじゃないですか。僕なんか『サウナランド』を出した時、次出すとか言わなかったもん。大変すぎて、もう1冊でいいやと思った。雑誌って辛くない?

宇野:辛い!!

箕輪:単行本と違うよね。

宇野:そう。作業量が何倍もあるから、本当に辛いんだよね。

箕輪:しかも作業量が多いのに、単行本より売れないっていう。

宇野:そんなこと言うとさ、やめたくなるから言わないでよ。

箕輪:でも楽しかった?

宇野:充実感はすごくあった。新たに創刊するものだから、何もかもを全部つくりなおした。これまで出していた『PLANETS』とは、見た目も中身も全然違うものになった。

箕輪:そう思う。目指すべき方向性とかコンセプトが違う気がする。

宇野:『PLANETS』って、いわば2、3年に1回の大花火なんだよね。「今」のタイミングで世の中に発信したいものを表現するのが『PLANETS』で、『モノノメ』は定期刊行だから、ペースメーカーみたいなもの。比喩的に言うとしたら、『PLANETS』はジブリ作品で、『モノノメ』は週刊少年ジャンプなんだよね。

箕輪:宇野さんが生きてる中で、感動したり、憤ったり、感情を突き動かしたことが、うわーってカオスみたいに混濁しあう中で、ボンって産み出したのが『PLANETS』だよね。

宇野:そう。『モノノメ』は、今の僕が気になってること、“最近こんなモヤモヤが生まれてきた”とか、生煮えのモノを結構そのまま出してる。それこそ過程そのものを焼き付けてる感じがするよね。
 でもさ、定期刊行の雑誌ってそういうものなんだよね。だから『PLANETS』の方が主張の結論みたいなのもはっきりしているんだけど、『モノノメ』は、今の僕自身の世の中の見え方をリアルタイムに共有してる。そういうのをやってみたくなったんだよね。

箕輪:これって僕が編集させてもらった宇野さんの著書『遅いインターネット』で提示した「遅いインターネット計画」の中の1個で、今回の対談テーマになっている「なぜ今、雑誌なのか」にも繋がると思うんだけど。『遅いインターネット』を出版した時、“遅いwebメディア”をつくろうって言って、webメディアは制作したと思うんですけど、あの時から雑誌も考えてたんですか?

宇野:考えてなかった。『遅いインターネット』のwebマガジンって、全然売れ線のもの扱ってないわけ。でも、あれ結構読まれてるの。おかげさまで、評判も良くて。
 でも、「しまったな」って思うところもあって。それは「記事単位」でしか、みんなに認識されてないことなんだよ。よく「宇野さん、あの記事めっちゃ良かったね」とは言われるの。例えば猪子さん石川善樹さん、お茶の丸若さんと僕とで、うまみについてずっと喋ってたやつとかね。

評判良くて、めっちゃ読まれてるの。だけど「記事が良かった」って言われても、あの「メディア良かったね」とは言われない。記事単位でしか話題にならないんだよね。

箕輪:宿命だね、webメディアの。

宇野:そうなんだよ。僕なりに、他の記事もこだわってるし、記事単位じゃなくてメディアに注目がいくように工夫したつもりなんだけど、限界があってね。僕は一応、政治からサブカルチャーまで、幅広く喋れるのが売りなんですよね。自分的には。だからwebでも総合的な世界観を見せたいって気持ちがすごいあって。

箕輪:そうだよね。元々、宇野さんは編集長気質だもんね。

宇野:できれば、メタレベルのメッセージを伝えたいのが本音。それで、やっぱり記事単位じゃなくて、メディアとして影響力を持つことが大事だと思った時に、webマガジンだけだと求心力が弱いと思ったんだよね。


箕輪:わかる。本もそうだけど、『サウナランド』出版して思ったのは、8000部しか出してないのに、圧倒的に求心力があるなって思ったんだよね。ある種の「経典」みたいになるよね、紙の本って。

宇野:僕の書いた本は、それなりに読まれている方だとは思うんだけど、そこにあるのは「僕個人の思考」に対しての関心だと思うんだよね。

箕輪:まさに。宇野さんが今、何を喋るのか。何を書くのか。ってところだよね。

宇野:そうそう。でも雑誌では、僕個人の思考だけじゃなくて、僕の周りの人達が見せてくれる世界観と、僕の好きなものを混ぜ合わせた世界像みたいなものを表現したくて。もちろん、「人類史に名を残すような一冊」を産み出したいという願望もあるけど、それとはまた違った欲望なんだよね。

箕輪:なるほどね。

宇野:小学校の時、お道具箱ってあったでしょ。

箕輪:あった。お道具箱の底から、グチャグチャになったプリントが異常に出てきてた(笑)。

宇野:僕もそういうタイプだった。でもさ、クラスの中には、お道具箱に匂い消しゴムとかきれいに整頓して並べてた人いたじゃん。あの欲望は、実はよくわかるの。

箕輪:だって宇野さん、事務所に置いてある仮面ライダーのフィギュアとか、めちゃくちゃきれいに整頓されてるじゃん。俺、あれできないもん。

宇野:世の中の人たちが、本棚やフィギュアを見せびらかしたい気持ちと一緒で、僕は自分の好きなものをカタログ的に提示して、メッセージを伝えることがやりたい人なんだよ。

箕輪:わかる。宇野さんとは違うかもしれないけど、俺も『サウナランド』やってホントに楽しかったもん。出来上がった時の充実感。チームスポーツで優勝したみたいな気分。関わる人数が全く違うしね。

宇野:全く違うし、本だと届かないところに届くんだよ。僕の書いた本を読まない人も、『モノノメ』をパラパラめくって、「あ、こんなものあったんだ!」って言ってくれるんだよね。そういった人たちとも一緒にやっていきたいんだよ。

箕輪:わかる。雑誌の「雑」というのはまさしくそういう意味で、よく言われる話だけど、興味のある特集のために買ったはずなのに、違う特集ページをたまたま開いて、新たな好きと遭遇するみたいな。インターネットにはない「偶然」の出会いみたいなものも、雑誌ではあるよね。

宇野:逆に言うと、そういう「偶然性の強制力」みたいな物理的なものの強さって、紙の雑誌くらいしかないんだよね。

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夜の東京。
お酒を飲まない選択肢があってもいい

箕輪:雑誌の内容に触れたいんですけど、「飲まない東京」プロジェクト2021、という企画があるじゃないですか。なんでそんなこと始めちゃうんですか? 肩身狭くなるよ。でも宇野さん、飲む人が嫌いなわけじゃないもんね。

宇野:飲み会が嫌いなだけで、飲む人が嫌いなわけじゃないよ。周りには、酔いが覚めて正気になるのが怖いから、ずーっと飲んでるって言うやつもいたし。飲んだくればっかりだったけど、嫌いなのはアルコールでも、アル中の人でもなくて、飲み会なの。大人の遊び=飲み会、になっているのが嫌なんだよね。

箕輪:たしかに、酒を軸に夜の街が回っているのは、まさにそうで。その軸があるなら、もう一方の軸もあった方がいいよねって、そう思った。夜の会話って「今日どこで飲むか」ばっかだもんね。

宇野:出版業界って飲み会が多いじゃない。最近はコロナでだいぶ無くなったけど。

箕輪:昔は、飲むまでが仕事って感じでしたよね。

宇野:それって日本社会の「人間関係至上主義」と結びついてると思うの。お酒の席を共有して共通の敵の悪口を言って、腹の底から話し合ったら味方だって認識される。それからいろんな仕事が敵・味方理論で決まっていく社会がすごく嫌で、そこから距離を置こうと思って酒をやめたんだよね。

箕輪:じゃあそれまで飲んでたってこと?

宇野:そんなに好きじゃなかったけど、普通に飲んでたよ。

箕輪:へぇ、意外。そうなんだ。

宇野:でもさ、酒を飲まなくなると、東京ってちょっとつまらなくなるんだよね。

箕輪:やることないよね。

宇野:東京の街って、夜通し店が開いてて、賑やかですごいいいところだと思うんだよね。コロナの前の東京の話だけど。夜の散歩もすごい好きなんだけど、入る場所がないんだよね。

箕輪:まあね。酒飲まないとね。

宇野:酒飲まないと、居づらいんだよ。酔っ払いばかりの空間って。

箕輪:あと店でウーロン茶、頼んでも、何杯も飲めないから申し訳なくなるよね。

宇野:静かなバーとか行っても、逆に浮いちゃうしね。そうなると、残された選択肢ってファミレスしかないんだよ。深夜のファミレスって、謎の場末感があるじゃん。

箕輪:あるよ。何か事情を抱えてる人の場所だよね。

宇野:翼の折れたエンジェル以外立ち入り禁止感があるわけじゃん。

箕輪:確かに。場所にもよるけどね。堂々と行けるとしたら、めちゃめちゃうるさい渋谷のファミレスぐらいだもんね。

宇野:そう。東京はせっかく面白い街なんだから、アフター5の時間に、お酒飲んで騒いで親睦を深め合う以外の選択肢が、もっとあっていいんじゃないかなってずっと考えてる。

箕輪:俺もそう思う。じゃあ宇野さんの提案としては、お酒を飲まないとなると、何をするの?

宇野:まず、そんなにみんなで集まらなくていいと思ってる。どうしても何人か集まると飲んで騒ぐになっちゃうから、まずは「一人遊び」を擁護したい。

箕輪:まあね。でも一人で遊ぶんだったら、家にいればいいんじゃない?

宇野:そんなことないよ。だって、みんなリモートワークの時に、家でずっと一人でパソコン打ってたら、気が滅入ったって人もいたと思うんだよ。

箕輪:滅入る。

宇野:人間には特別喋りたいという欲求はなくても、誰かと一緒にいたいっていう欲望が、潜在的に確実にあるんだよ。

箕輪:喋らなくてもいいけど、近くに人がいて欲しいってこと? それはあるよ。

宇野:それなのに「孤独」か「メンバーシップ」の2択で、属性を当てはめようとしてくるような人がいる。でも、僕からすると、パーミッション的に「そこにいる」ことが許されるってことが、社会にとって重要だと思うんだよね。

箕輪:それは、同じ価値観の人がいるってこと?

宇野:いや、そうじゃなくて。スタバとかはちゃんと飲食の支払いさえすれば、追い出されることはないでしょ。それだけで、いいんだよ。別に共通の敵の悪口を言って仲間であることを確認する必要はない。

サウナがパーミッションの役割を果たす?
「そこにいていい」新しい居場所

箕輪:これポジショントークみたいになっちゃうと申し訳ないんだけど、宇野さんの言うパーミッションってサウナが解決しない?

宇野:いや確かに。少し話逸れるけど、俺と箕輪さんと猪子さんの3人で、サウナについて語る会をやる予定だったんだよね。

箕輪:あれやりたかったよね。絶対、楽しかったのに。

宇野:やりたかったね。でも僕は、もともとめっちゃアンチサウナだったの。カタギの人間が行く場所じゃないと思ってたから。

箕輪:どういうイメージ?

宇野:偏見かもしれないんだけど、反社会勢力の溜まり場みたいな。というのはさすがに冗談だけれど、なにか体育会系の匂いがしてさ。

箕輪:古いよ(笑)。ただ場所にもよるけど、俺がよく行くサウナは、刑務所上がりの人やタトゥーだらけの人たちがいるよ。話を戻すんだけど、猪子さんずっとサウナ好きだよね。俺、知り合いになる前にサウナで会ったもん。

宇野:そう。それでチームラボが佐賀でやってるイベントに誘ってもらったんだよね。

箕輪:サウナシュランで2年連続日本一になっている「御船山楽園ホテル らかんの湯」ね。

宇野:そう、そのホテルに泊まったわけよ。それで猪子さんに「俺は今日は宇野さんに絶対サウナを味わって欲しくてこの提案をしたんだ!」って感じのことを言われて、サウナを断れない感じだったの。

箕輪:そりゃそうでしょ! 「竹林亭」に泊まってサウナ入らないとかマジで頭おかしい人だよ。

宇野:みんなでお酒飲みながら、あ、僕は飲んでないけど、猪子さんご自慢のぼたん鍋をつつきながら、久しぶりに集まった仲間と楽しい時間を過ごしてたら、あっという間に時間が過ぎちゃってて。夜中の3時くらいかな。今日はもうサウナはないんだなって思って安心してたら、猪子さんが「サウナ行こう」って言い出すんだよ。

箕輪:そりゃそうでしょ!

宇野:僕としては、楽しい会話をして、ぼたん鍋でお腹も満たされ、あとは部屋でアニメのまとめサイト見たり、ガンプラの新情報でもチェックして寝ようと思ってたんだよ。

箕輪:何それ。かわいいなぁ(笑)。逃げ切れると思ってたのね。

宇野:そうだよ。そしたらサウナ行くって言うしさ。「俺はこのために宇野さんを佐賀に呼んだんだ!」くらいのトーンで言われてさ。

箕輪:実際どんな感じだったの? 詳しく教えてよ。

宇野:オーナーの小原嘉久さんが、「今日はとっておきのサウナをご用意しました」って言ってて。「とっておきの香を焚きました」とかってさ。

箕輪:ロウリュウね。

宇野:めっちゃハッカみたいな匂いがしてるわけだよ。

箕輪:いやそんなの、サウナーからすると、めっちゃ最高よ。

宇野:僕からすると、めっちゃ高温、めっちゃ乾燥、めっちゃハッカみたいなところにいきなりぶち込まれて、みんなはテンション高くて楽しそうなんだけど、こっちはもう早く出たくて仕方がないわけよ。

箕輪:何分くらいで嫌だったの?

宇野:いやもうすぐに限界だったよ

箕輪:早いよ(笑)。何分ぐらい我慢したの?

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宇野:覚えてない。その後に、猪子さんに水風呂入るぞーって、連れて行かれて。

箕輪:そりゃそうでしょ、サウナ入ったんだから(笑)。

宇野:死んじゃうよ、心臓麻痺で。猪子さんをはじめ、みんなはザブンザブン飛び込んでるんだけど、こっちは足先からそーっと入っていくわけよ。

箕輪:おしとやかな女子じゃん(笑)。

宇野:それで肩まで浸からないと許さないって言われてさ。

箕輪:気持ちいい体験をして欲しかったんだよ。

宇野:でもね、ちょっとわかったんだよね。肩までつかるハードルは高いんだけど、上がった後に全裸で座ってぼーっと月を見上げてると、なんか世界に直接触れてる気がした。

箕輪:まさしくその通り!

宇野:「あ、これが“ととのう”ってことか」って。でも、その時の僕の“ととのう”の快楽って数値で言うと10くらい。その前の高温ハッカサウナと冷たい水風呂に、猪子さんに叩き込まれるという一連のダメージはマイナス30くらいだったから、差し引きマイナス20。

箕輪:難しい人だなぁ(笑)。猪子さんと「らかんの湯」に行って、支配人が特別にサウナ用意してくれるなんて、一般のサウナーからしたら一生の自慢よ。

宇野:らしいね。周りから「めっちゃ贅沢な体験をしてるよ」って言われる。

箕輪:そりゃそうだよ! 白鵬と相撲見てるようなもんよ。

宇野:マジ?! それはすごいね。桑田真澄に投球術習ってるみたいなもんなのね。

箕輪:そういうことよ。なのに、そのすごさが伝わらなかったわけでしょ。

宇野:伝わらなかったね。でも、そこから何ヶ月か経って、六本木でやってたやつに行ったの。

箕輪:チームラボサウナね。

宇野:あれがさ、けっこう初級者から中級者向けだなって思ったんだよ。

箕輪:そうだね。あそこは水風呂じゃなくて、シャワーだしね。

宇野:そのシャワーもアートっぽくて楽しいじゃん。あれはすごく良くて、サウナで「ととのった」あとに、あのメインビジュアルになっている暗闇に赤い球体がふわふわ浮かんでいる作品をぼーっと眺めていると、そのときに「あぁ、これかぁ」ってなった。このときだね、「ととのう」って感覚がちゃんとわかった気がしたのは。これはすごい世界の入り口だと思った。初心者の僕には、猪子さんの最上級コースの良さはまだわからなかったんだよ。

箕輪:確かにそうだね。それでサウナーになったの?

宇野:いや、それはなってない(笑)。ちょっと話が長くなっちゃったけど、パーミッションの役割は、サウナでも良いんだよ。たとえ自分と属性の違う人が一緒にいても、喋らないでいいわけだしね。

箕輪:宇野さんが言う「そこにいていい」新しい空間だよね。

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デジタル時代は、嫌でも誰かと繋がっている。
一人の時間がないと、バカになる


箕輪:『モノノメ』は実際出してみて、ビジネス的にはどうだったんですか?

宇野:クラファンの支援のおかげで、この創刊号は大成功だけど。創刊号でこれくらいの売れ行きだと、スタッフの人件費まで考えて続けられるかというと、結構やり方は考えないといけないなと思っている。

箕輪:雑誌のクオリティを保とうとしたら、プロに手を動かしてもらわないと難しいもんね。『サウナランド』はオンラインサロンでやったから、人件費0円だったけど、人件費あったら大赤字だったと思う。

宇野:だから結構大変で、『モノノメ』はクラファン大成功の反響もあって、ありがたいことに売れ行きも好調で。今のところ7割くらい売れてる。でもクラファンはいろんな特典リターンがあったから、製作費をペイできたわけで、次号から純粋な雑誌の売り上げだけでペイしようと思ったら、油断できないと思う。

箕輪:できないよ!

宇野:だからそれをどうやって売るかは、もうひと山越えないと難しいんだよ。

箕輪:でも、俺ずっと出して欲しい。

宇野:このクオリティでね。だとすると方法は2つで、ほぼ完売するか、もしくはもっとしっかり広告を入れるか。

箕輪:『サウナランド』はめちゃめちゃ製作費かかったもんな。例えば、巻頭の4ページくらいのグラビアをわざわざ長野の白馬まで行って撮ったの。ホントふざけまくったの。もう「いってまえ!」精神だったの。でも結果、結構黒字になった気がする。

宇野:それは広告が入ったからでしょ?

箕輪:そう! でもそれは「サウナだから」ってのはあるよ。

宇野:いいなぁ。『モノノメ』の内容だと、広告入らないんだよなぁ。

箕輪:そうなんだよ。この雑誌だと、広告出す便宜が通りにくいんだよ。

宇野:そんなのソーシャルグッドしかないよ。

箕輪:その通りだよ。SDGs特集とかやってくださいよ。

宇野:そういうのやりたくないんだよ。今の時代、どこ見ても「SDGs」を謳っている人だらけじゃん。

箕輪:わかる! だから俺、宇野さんと友達なんだと思う。SDGs否定はしないけど。

宇野:僕も否定はしないよ。やった方がいいに決まってるんだけど、それは僕の仕事じゃないと思うんだよ。マイナスをゼロにする仕事も大事だけど、今はちょっと別のことをしたいなと思うんだ。

箕輪:ホントその通り。でも、SDGsを掲げたら広告もつきやすくなる。だけど、そういうことじゃないんだよね。そういえば、『モノノメ』の中で、もう次号のテーマが溢れて仕方ないって宇野さん言ってましたけど、何に興味があるんですか?

宇野:「身体論」をやりたいなと思ってるんだよね。

箕輪:何で?

宇野:単純に興味あるからだよ。僕さ、これまでメディア論やってきたじゃん。箕輪さんと作った『遅いインターネット』もメディア論の本でしょ。メディアの話もやって、都市の話もやったじゃない。つまり環境の話をずっと僕は考えてきたのね。

箕輪:ああ、それで「身体」に戻ってくるのね。

宇野:そうそう。今までは、どうすれば人はもっとクリエイティブな能力を発揮できるのかとか、どうすれば社会はもっと平等になるのかとか、民主主義は円滑にいくのかとか仕組みのことばかり考えてきたんだけど。もっと人間のことをちゃんと考えたいなって思って、身体をやろうっていう。あと今書いてる本も、身体についてなんだよ。

箕輪:あ、今書いてるんだ。

宇野:身体のことが割と大きなテーマになってる。

箕輪:すごいテーマで書くね。こうして喋ってると、やっぱ宇野さんすげえなって思う。また一緒に本出したいな。

宇野:やろうよ、やろうよ。

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箕輪:何をテーマにやる? やっぱさ、幻冬舎でやるんだったら、ある種、批判的なことをど真ん中でやらないと意味ないじゃん。中央突破したい。絶対に宇野さんの時代来ると思うんだよね。

宇野:中央突破したいよね。やるとしたら、今書いてる本を、めっちゃ俗っぽくしたやつがいいかもしれない。今は、批評的・思想的・論理的に書いてるのね。それをメッセージ性を強くして、ドカン! みたいな。

箕輪:端的に言うと、どういうメッセージなの?

宇野:「一人になりなさい」ってことだね。

箕輪:あぁ、いいじゃん。それ面白そう。

宇野:一人になる時間が無いと、人はバカになると思ってるの。昔はその逆で、誰かと繋がらないとバカになってたんだけど、今のデジタル社会じゃ、ほっといても勝手に繋がるから、ちゃんと一人になる時間を持たないとバカになる。っていう、大雑把にかいつまんで言うと、そういう本。
 あと、物事を攻略するのにハマるとバカになるからやめなさいっていうことも言いたい。僕はプラモデルも自分の中にある美の達成のためだけに作ってる。だからゲームを攻略して、他の人に勝りたいっていう心境がよくわからない。
 初期のスーパーマリオはステージのゴールに旗があって、どう旗を取るかによってゴールの演出が変わるのね。でも、どんな形でもゴールはゴールじゃん。

箕輪:確かに。その考え今っぽいよね。昔は普通とは違う攻略をすることが正義だったけど、今はそれぞれの正義があっていいってことだよね。

宇野:そう。だから攻略精神でやってると、バカになるよってことを書いてるの。

箕輪:攻略精神にハマると、アルゴリズムの奴隷になってるよってこと?

宇野:というかね、攻略することってすごい楽しいじゃん。200ページの小説読むのは苦しくても、同じ量のテキストがゲームになってたら楽しい。それは自分がボタンを押したら確実にその状況に介入できて、自分の存在やアクションが確実に状況を変化させてるのがわかるから退屈しないんだよね。それは人間を動機付けさせる力が強くて、人を夢中にさせるんだけど、逆にそのせいで人はバカになってると思うんだよね。

箕輪:面白い。「孤立せよ!」みたいなこと?

宇野:そう。孤立せよ、だし、フィードバックの中毒になるな、みたいな話。だから「脱ゲーム論」なんだよ。

箕輪:「孤立せよ」ってメッセージ、いいかも。

宇野:そう。脱ゲーム論。いいでしょ

箕輪:やりたい。30万部とかいくやつ作りたいね。でもさ、宇野さんって、「いや、それ売れるかもしれないけど、僕はそのやり方、嫌です」ってなりそうだよね(笑)。

宇野:それはさ(笑)。ちゃんと一線は守るよ。『〇〇力』みたいなやつは出さないよ。

箕輪:『孤立力』出しましょうよ(笑)。

宇野:出さないよ。絶対嫌だよー。箕輪さんってやっぱ悪いやつだったんだね(笑)。

物理的な制約の中で、何ができるか。
定期刊行物だからこそ、できる表現がある

箕輪:俺さ、宇野さんのことホントかっこいいなって思ってるのが、毎回めちゃめちゃ憂鬱になりながら、それでもモノ作りをし続けてる。「これやばいかも」とか「どうしたらいいんだろう」とか「売れなかったらどうしよう」とか、本気でヒリヒリするモノ作りを永遠にやれるモチベーションは何なんですか?

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宇野:単純に好きだからなんだけど、ただ最近僕も考えることはあって。今43歳なんだけど、50歳になったら絶対にこれできないと思って。

箕輪:絶対無理でしょ。体力とアイディアとモチベーションが出ない。

宇野:それに、自分の作ったメディアより、自分が書いた本の方がかわいくなってくると思うんだよ。

箕輪:そうだと思うよ。淡々と書くようになると思う。

宇野:だからね、後継者を育てなきゃいけないなと思うわけ。

箕輪:宇野さん的な編集長を?

宇野:そうそう。別に僕と同じものを作る必要もないし、僕と同じ熱量を持てとも言わない。『モノノメ』みたいに、自分の価値観を伝えるクオリティの高いコンテンツを作り続けられる「仕組み」を残したいんだよね。そういう人材を育てていかなきゃいけないタイミングだなと思ってる。

箕輪:それは『PLANETS CLUB』で育ててってこと?

宇野:そこから出てくるのが理想だよね。理想だなとは思ってるけど、別に僕のやってることに刺激を受けた若い人が、チームとか作って出てきても全然いい。

箕輪:1を10に、10を100にできる人はまあいるんだけど、宇野さんとか僕みたいに、0から1を発生させる情念みたいなのって、学習じゃないじゃないですか。そうじゃない?

宇野:いやそうだと思うよ。僕もね、動機をもった人っていうのは確率論でしか産まれないと思ってるんだよ。でもそういった人達をサポートできる人は訓練でできるから、そこを育てるだけでも、動機を世の中に出す後押しできると思ってるんだよね。

箕輪:なるほどね。別に動機を持った人が宇野さんの近くで生まれなくても、後押しできる能力を持つ人をいっぱい育てれば、『モノノメ』みたいなのができるってことね。

宇野:『モノノメ』って、僕がめっちゃ現場仕事してるんだよね。でもそれって僕の体調とかにクオリティが左右されるわけじゃん。でもそうなると続ける意味がないから、僕以外の人間でもしっかりしたものを作れる体制を作らなきゃいけないなと思ってるの。

箕輪:でも宇野さんそれ苦手だよね。これは褒め言葉なんだけど、宇野さん妥協できないじゃん。俺も自分で雑誌作ったからわかるんだけど、俺は妥協できるのよ。こだわるんだけど、「まぁまぁまぁ。今回の妥協点はここだよね」ってできるの。

宇野:いやいや、僕だって締め切りとか物理的な制約は受け入れるよ。それは定期刊行にしている1つの意味でもあって、定期刊行だと100%は無いんだよ。不定期刊行だと「これが今のベストだ」って溜めたパンチを出せるけど、定期刊行物は作り続けなきゃいけないからね。

箕輪:そこちょっと聞きたいんですけど。俺は稼がなきゃいけないとか、定期的に刊行しなきゃいけないっていうのがないから、『サウナランド』にしても、ネタが溜まって、やりたくなったら完璧な形にして出そうって部分があるのね。
 一方で、俺がやってきたNewsPicks Bookとかは、月1でどうしても発刊しなきゃいけないっていう、本ではありえないサブスクモデルだったから、とにかく出し続けたの。それで、クオリティがどっちがいいかって言ったら、正直よくわからない部分があって。時間的制約がある中で雑になった面もあったけど、それはそれで意味があったなと思ってて。この定期、不定期のクオリティの良し悪しって、難しくないですか?

宇野:確かに難しいよ。ただ、そもそも別物だと思っててさ。例えば、NHKの朝ドラって週5で15分を半年間っていう尺があるから、大量の登場人物が複雑に絡み合う物語が描ける。あれ2時間の映画じゃ絶対に無理なんだよね。それと同じで、定期刊行物だからこそできることをやればいいと思ってる。

箕輪:あ、なるほどね。そもそもが比べるものじゃないってことね。

宇野:まだ1冊しか作ってないけどホント思ったの。それが定期刊行物の面白さなんだなって。

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箕輪:でもプレッシャーかけるわけじゃないけど、それだったらホントに定期刊行しないとダメだね。クオリティ云々置いといて。これで1年後とかに出してたら何言ってたんだよって話になっちゃうからさ。

宇野:そうなんだよぉ。もうさぁ。

箕輪:皆さん、ぜひ「base モノノメ」で検索してください。そして、読んだら感想をツイートしてください。

宇野:お願いします。結構、読むの大変だと思うんですけど。

箕輪:すぐ読み終わるって感じじゃないよね。でもさ、俺、雑誌の好きなとこって、目次とかパラパラ見たりとかして、「あ、これ面白そう。あとで読もう」みたいなとこなんだよね。

宇野:それでいいんだと思うよ。雑誌って雑に見てくれていいんだよ。気が向いた時にパラパラめくるってものだから。


※この対談のアーカイブは、「PLANETS CLUB」と「箕輪編集室」からご覧いただけます。

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テキスト / 上田たきび
編集 / さんたっくす
バナー / 弥生
写真 / Megumi Nagata
書き起こし / 上田たきび、あやねぇ
校正 / 清水えまい大村祐介

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