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「本には未来しか感じない」出版社の垣根を越え3人の敏腕編集者が集う #未来の書店 代官山に開店 #箕輪書店だより

ー19:00

夕暮れはまだ肌寒い初夏の代官山。

ここ、代官山 蔦屋書店には48名の本好きが集まりました。


メールマガジンが冊子へ、そしてついにリアルイベントへ


全ては、編集者 箕輪厚介の1つのtweetから始まりました。

この発言をきっかけに立ち上がった、書店員向け無料メルマガ「箕輪書店だより」のプロジェクト。企画、取材相手へのオファーなど全てをメンバーの手で行い、人気の著者さんや第一線で活躍する編集者・現場で様々な売り方にチャレンジする書店員の方への取材・執筆を行ってまいりました。

2019年1月から毎月月末に配信されているメルマガは、その後デザインチームの協力もあり冊子へと姿を変えます。それを全国の書店へと届けてくれるのは、各エリアの箕輪編集室メンバーたち。一件一件、手で直接配布してくれています。

「今、日本で一番書籍を売る男」、そんな肩書きで語られるようになった箕輪厚介が行う施策は派手なものが目立ちますが、同じように大切にしていることは、一人ひとりに直接手渡しをしていくような「ドブ板営業」。

そんな想いのもと、多くのメンバーが参加している箕輪書店だよりの新たな取り組みとして、3ヶ月連続で代官山 蔦屋書店さんとのイベントが行われることとなりました。

出版社・書店・読者がつながる『未来の書店』スタート

〈ゲスト〉※写真左より
木村 香代さん
ダイヤモンド社 編集者
主な担当書籍『お金のウソ――親の常識は、これからの非常識!』(中野 晴啓 著) 
2019年7月24日に箕輪編集室とコラボレーションした書籍を発売予定

多根 由希絵さん

SBクリエイティブ 編集者
主な担当書籍『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文、落合陽一 著)
2018年日販ビジネス書売上年間ベスト5のうち、3つを送り込んだヒットメーカー

大坂 温子さん
朝日新聞出版 編集者
主な担当書籍『頭に来てもアホとは戦うな』(田村耕太郎 著)が70万部突破

<モデレーター>
柳田一記
箕輪書店だより 編集長

以前、箕輪書店だよりに登場してくださった多根さんと大坂さん。そして、箕輪編集室メンバーと書籍を作るという新しい取り組みを行った木村さんの3名をお招きし、イベントはスタートしました。


【書店との思い出】編集者である前に、1人の本好き

編集者として多くの活字に触れているお三方ですが、そもそもは1人の書店好き・本好きだったのだと話します。共通していることは、幼い頃からそれらが身近で大切なものだったということ。まずはその思い出から伺っていきます。

大坂さん:小さい頃から、本屋さんはとっておきの場所でしたね。おもちゃ屋さんよりも好きでした。人間関係に悩んだ学生時代も、受験の時の参考書選びも、色々な場面で本屋に育てられてきたという感覚がすごく強いです。

木村さん:私、小学生の時からツケで本を買う子供だったんです(笑)。両親が共働きだったこともあるんですけど、町の小さな書店に通いつめては、ツケで本を持って帰って、月末に両親が支払いに行くということを繰り返していました。漫画はダメだったけど、本はかなりの数を買ってもらいましたね。

多根さん:本屋さんの空気がとても好きで、行くたびに色々な出会いがある。その雰囲気がすごく楽しかったんですよね。

ーーどんな本を買っていたんですか?

大坂さん:活字が読めるようになってからは、文芸をたくさん読みました。

多根さん:私はコバルト文庫などを買っていました。そんなに周りの友達との違いはなかったような気がします。

木村さん:私も同じです。世代ですね(笑)。

ーー昔と比べて、本屋さんの形態が変わったなと思うことはありますか?

大坂さん:長野県民なんですけど、駅前にあった大きな書店がドン・キホーテになっていて、すごくショックだったんですよね。本屋さんの売り場面積が小さくなってきたんだなっていう気はしていたけど、事実として小さな本屋さんはどんどん減っています。胸がえぐれる思いで、日々なんとかならないかなと思っていますね

木村さん:横浜出身なんですけど、西口に有隣堂という大きな書店があって、高校時代は寄り道はダメだけど有隣堂だったら許されたんです。そこには同じ学校の子もいて、時にはカップルもいて、「あぁ、あの2人付き合っているんだなぁ」って知る、みたいな(笑)。

ーー交流の場でもあったんですね。

木村さん:喫茶店と違ってお金もかからないですし、この話題ができる人とは話も合うなという一つの物差しのような感じだったんですよね。

編集者と書店の関係は、意外と遠い

ーーみなさんは今でも書店に足を運びますか?

多根さん:本を作っているとき、帯やタイトルの案を決めるときは特に、どういうものが書店の雰囲気に合うのかという目線で作るので、すごく足を運びますね。

大坂さん:実は編集者と書店ってすごく距離があるんです。仕事としてアイディアを取りに訪れるというのは、基本的に出来ない。書店員さんはとてもお忙しいので、営業部や販売部の方が間に立ってという形態が一般的なんですよね。

多根さん:どうしてもこの書店員の方に意見を聞きたい! と思えば、営業部の方にお願いして、とちょっと遠回りをしないといけません。

大坂さん:著者さんが希望した場合には、販売部と一緒に回れるという感じです。

ーーその時はどんな会話をされるんですか?

多根さん:本を作った経緯や、こんな風にお店に置いて欲しいですという希望をお伝えすることはあります。

大坂さん:きちんと筋道を立てて営業活動をしていると、書店員さんも自分ごとになってくださるんです。その場で置く棚を変えてくれたこともあります。何ごとも人間関係ですよね。書店員さんのパワーを特に感じたのが『頭に来てもアホとは戦うな!』の販売部数が一気に伸びた時。

ベストセラーとなったのは、地方の1つの書店さんがずっと売り出し続けてくれたことがきっかけだったんです。2年間、どんな新書が出ても常にランキング上位にこの本を置いてくれて、そのデータを持って全国に広げてくれたんですよね。そのおかげで、ここまで売り上げられたのだと思います。

ーー1つの書店で売れ続けてそれが火種となって全国に回る、ということがあるんですね。

大坂さん:書店員さんの心を動かすには材料は3つ必要で、テレビ・ネットの連載・あともう1つ揃えないとというのは常々言われていたことなんですよね。もう1つを何にするのかが、すごく大事だった。でもそれが少しずつ変わってきている気はしますね。

ーーそれは編集者という仕事自体の変化ということですか?

多根さん:そうですね。本を出すだけでなく、書店にどう人に来てもらうかまで考えなければいけなくなったのだと思います。その導線を作ることも重要視されるようになってきた気がします。

木村さん:編集者って昔は黒子だったんですよね。今では販売促進のために何をやるのか、弊社でいえばダイヤモンド・オンラインを使ったりSNSを使ったり。箕輪さんが特にそうですが、「箕輪さんが作った本だから買う」という、編集者が前に出て本を売っていくようになっていると思います。

今回のイベントのように、書店さんもイベントを行うことで人に集まってもらう、ということがもっと大切になっていくのかもしれないですね。

大坂さん:それこそ最近、高知の書店さんが私の書籍を集めた棚を作ってくださったんです。それまでは、編集者は表に出ないことが美徳だとされていたけど、箕輪さんがぶち壊してくれたことでそのフェアの企画に繋がったんだと思います。

編集者という仕事の変化をひしひしと感じているお三方。その動きは、予想以上に大きなもののように見受けられます。話題は世間で語られる「出版不況」へと続きます。

「出版不況? 本当に?」

昨今、声高に語られる「出版不況」。会場のスクリーンには出版数の変化を表すデータが映し出されます。右肩下がりに見えるグラフを見ながら、これからの本の活路についてお伺いしていきます。

多根さん:月刊誌が減っていることもあり、データとしては減少傾向が見えますが、書籍自体は微々たる差があるくらいで、そんなに減少しているという感覚はないんですよね。

この間久しぶりに百貨店に行ったのですが、それこそ年配の方が多くて、昔と比べて人が絞られているなと感じたのですが、書店は今でも老若男女色々な人がいますよね。教養であったり、本ならではのことってたくさんあるとと思っていて、他のものよりもストーリーを伝えることには長けているので、まだまだ工夫のしがいがありますよね。

ーー時代が変わった、ということなのかもしれないのですが、出版に向けての体制などに変化はあったのでしょうか?

大坂さん:私のことではないんですけど、ダイヤモンド社さんが刊行数を減らしていますよね。これからの活路を見出すには構造を変えるしかないと思っているんですけど、数を出さなければいけない自転車操業のような体質を変えたいと常日頃思っているんです。「ちゃんと心を込めてその本作ってる?」って感じてしまうんですよね。それを壊していこうとする姿勢に感動して、これはどんどん真似していかないといけないなと思うんですよね。

木村さん:ありがとうございます。出版不況とは言われますけど、実際の売り上げは右肩上がりなんです。本はコンテンツとして残るものなので、本にしか出来ないことはたくさんある。雑誌もビジネス書も売れているものがたくさんありますし、そんなに暗い気持ちは全く持っていないんですよね。

ここで多根さんが勧めてくれたのが、『読書する人だけがたどり着ける場所』。本の信頼性を改めて感じ、胸が熱くなったと話します。

多根さん:齋藤孝先生の本に対するまっすぐな想いを受けて、すごく感動したんです。こういう想いを持っている人を大切にして、一冊一冊を大切に作っていきたいなと改めて思いました。

ーーテレビなどのオールドメディアも人離れが激しいと言われていますが、本との違いはなんだと思いますか?

木村さん:テレビや雑誌と書籍の違いは、広告が入らないというところですよね。クライアントがいないということ。表現の自由さが違うから、心に残る濃さも違う気がします。

大坂さん:なぜ同じ活字なのに、WEB記事では感じられない感動が紙の本にはあるのかって考えたんです。その理由は、自分と会話をしながら読めることにあるのかなって。自分と内省できるからだと思うんです。本は無くならないというのは自分の中で決まっていて。だって、奈良時代の紙媒体が日本には数千点と残っているんですよ。そんなこと、他の国には無いですからね。

多根さんインターネットは消費かもしれないけど、本は向き合った時間が投資になるんですよね。身になっていくという経験、幸せな時間を過ごせるという価値は本の強みだと思うんですよね。

ーー多くのヒットを生み出している皆さんは、どんな風に本を作っているんですか?

多根さん:私は、本を作っているという感覚がなくて。著者さんが持っているコンテンツと読む人をどう繋ぐか、ということですよね。『1分で話せ』であれば、誰でも「話が長い」と言われたことがあると思うし、その悩みを解消するにはどうしたらいいかなと考え続けた結果本になるという感覚で…。

ーー箕輪書店だよりの取材の時に、毎週のランキングを見て世相を読み取る、とおっしゃっていたのですが、それでわかるようになるものですか?

多根さん:わかりますよ! 2018年で言うと、『LIFE SHIFT』であったりNewsPicksBookが流行ったことでわかるように「変わる」ことがキーワードだったなと思っていて、そこから2019年はそのあとどうする?と。

だんだん変化に疲れてきている感じがするので、2019年は普遍的なものが求められる気がしますね。勉強したいという気持ちが強い読者が、多くなっていく気がします。

木村さん:弊社は会社でヒットの分析は行いますが、基本的には流行りは追わないのが特徴です。市場に無いところに出す、それが売れる、だから他の出版社も続いて市場が生まれるという感じなので「どうやってヒットを?」と言われても、結果そうなった、という感じなんですよね。

ーー大坂さんは1日1個企画を生むそうですが、そんなに思いつくものですか?

大坂さん:ほとんどは使えないものばかりですよ(笑)。今日だったら「緊張している時にどうするか?」みたいな企画を思いつきますし、自分が感じたストレスを、とにかく企画のタネにしているという感じですね!

70万部を突破した『頭にきてもアホと付き合うな』は、それこそ大坂さんが人間関係に悩んでいた時に、タイトルそのままツイートで流れてきたのだそう。ヒットする企画のタネは、自分の日常との中から生まれてくるようです。

編集者・書店・読者を繋ぐ、未来の書店とは

出版社が異なる3人の編集者。なかなか交流がない中、今回のイベントではそれぞれの本づくりへの想い、取り組みが共有されました。これからの出版業界をさらに盛り上げていくであろう皆様に、書店や読者を巻き込む業界の理想形への道筋について伺います。

大坂さん:難しいことはなく、フラットに繋がればいいなと思うんです。私たち編集者が書店さんに行くには販売部を通さなければいけないとか、セクショナリズムなところがあって、そういうものがフラットになればいいなと。私のところに直接「本をください」って言ってくださる書店さんがあるんですけど、それがすごく嬉しいんですよね。書店員さんが直接働きかけてくれることで、これまでの壁が取っ払われてフラットになっていくのが理想だなと思います。

多根さん:本を売りたい! という目標は一緒なはずなのに、今は動きがバラバラなんですよね。そんな中で「箕輪書店だより」は、壁を取っ払ってくれたし、意義のある取り組みだなと感じていて。それぞれがもっとうまく組んでいくことはできるんじゃないかなと思うんです。でもそのためには、出版数が多すぎるという問題はありますよね。

木村さん:確かにそうですね。一番何が理想かというと、書店さんや読者と繋がる場所ができること。編集者が読者と繋がるのは、ハガキとネットくらいなんですよ。今日のように直接話をすることってなかなかない。それこそ求めているのは、ゆるい繋がり。

箕輪さんが今行っているように、制作段階から見せることで多くの人に興味を持ってもらったり、編集者・書店・読者が双方で発信をしあってゆるく繋がることが理想なんじゃないかなと思いますね。

箕輪厚介が新たに挑戦する本の売り方 【価格自由】に物申す!

現在、箕輪厚介が新書『ハッタリの流儀』で行っている【価格自由】という本の販売方法。元は2019年5月に発売された『実験思考』で始まり、1ヶ月半で1億円を超える売り上げを達成しました。その施策について、お三方に率直な感想を伺います。

木村さん:「本の可能性を広げる」という意味では、いい取り組みですよね。ただ、私は作った本を一人でも多くの人に読んでもらいたいという気持ちで作っています。お金が集まったからよかった! だけではなく、世の中を少しでもよくしたい・人生が変わるまではいかなくても、ちょっとよくなったなって思ってもらいたい。売れることが何より大事ですけど、この感覚も大事にしたいと思っています。

多根さん:本には2種類あると思っていて、書店に人を呼び込める本と、待っている本があるんですよね。ビジネス書は特にそうですけど、『ハッタリの流儀』のように著者が目立つ本がきっかけになって書店に人が来て、人を待っている本を見つけてもらえたり、相互関係があると思うんです。だから、新しい施策で書店に人が集まるのはすごくいいなと思いますよね。

大坂さん:率直に言うと、色々な施策を行う編集者が増えて、業界全体がどんどん面白くなっていったらいいよねっていう感じですよね!

本と向き合い、読者と向き合い続ける編集者たち。新しいチャレンジと自分の信念の間を往復しながら、未来の書店を明るくする新しい企画を増やし続けていくのだろうな、と感じさせてくれました。

【workshop】編集者と考える「買いたくなる本棚の作り方」

(イベント会場では、このイベントの登壇者に関わる書籍をまとめて置いてくださいました!)


1時間に及ぶパネルディスカッションを終え、続いてはグループに分かれてのワークショップへと続きました。

<個人ワーク>
あなたにとってのワクワクする書店とは?(5分)
<グループワーク>
グループごとに考えるワクワクする本棚とは?

これらのワークショップの結果は、ぜひTwitterで #未来の書店 で見てみてくださいね。

ブックバーやクエスト系本屋など、面白い案がたくさん生まれたようです。

『未来の書店』では、イベント参加後に参加できるFacebookグループを開設。代官山 蔦屋書店を中心とした新しいコミュニティが生まれます。

参加資格は、イベントに参加することだけ。ぜひ、次のイベントもチェックしてくださいね!

イベント終了後には懇親会も開催。多くの方が参加し、本に対する想いを語り合いながら、夜は更けていきました。


!!次回予告!!

8月22日 (木)19:00〜
『情熱と戦略で新しい仕事をつくる』の著者と編集者が登壇!
代官山 蔦屋書店にて開催予定です。
(詳細はTwitterやFacebookページにて告知いたします。)


本日のグラフィックレポートはこちら!


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執筆:柴田佐世子
グラフィックレポート:まりか
写真:Takumi Matsumura , 池田実加 , 和田恵美
イベントバナー制作:でらみ



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