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かすり傷も痛かった はじめに無料公開


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『かすり傷も痛かった』は『死ぬこと以外かすり傷』のアンサーソングです!
必死に競争し何者かになろうとした矢先、仕事がなくなり、酒浸りの生活の中で幸せとは何かについて考えたことを書きました。

内臓から絞り出すように書いたのでぜひ読んでください。




はじめに 
こっちの世界では革命は起こらない


成長することこそが自分の存在証明であり、成功するために努力は惜しまない。

眠い、苦しい、忙しい。

常人には耐えられないようなハードシングスを乗り越える。あらゆるリスクやトラブルは折り込み済みで、向かい風と返り血こそが存在証明だ。

自分が間違っていると疑うことは一度もなく、自分を信じて、走り続けた。

万能感が全身を包み込み、何者かになりたい若者がたくさん集まってきた。

『死ぬこと以外かすり傷』を出してから5年。あの頃の勢いは、もうない。

新人編集者となり、埼玉県の小手指駅から満員電車に揺られて通勤し、朝から晩まで仕事をした。それでもお金は貯まらず、アコムやプロミスからの借金返済の電話を無視しながら、氷結のストロングを流し込む。

このままでは、満足なお金も時間も持てず、会社と家庭の往復で人生を終える。それが普通だと言われても、自分はそんな人生を受け入れたくない。

破産覚悟で東京の賃貸マンションに引っ越し、一心不乱に働いた。

幻冬舎の編集者としてヒットを連発した。その実績をフックにオンラインサロン開設やメディア出演をし、世界は一気に変わっていった。

寝ているのか起きているのか、酔ってるのかシラフなのか。あらゆる境界が曖昧なまま、ものすごいスピードで一日が過ぎていく。

朝のテレビに出て、CM中に本のタイトルを考え、終わり次第講演会に向かう。漫画みたいな人生に興奮しながら、お金も影響力も自分なりには手に入れた。

その途上、文春砲を喰らい多くを失った。

急に時間ができ、朝から晩まで焚き火をした。焚き火をしながら、早送りで進んできた数年間を、ゆっくりと巻き戻して見直した。

成長、成功を目指してとにかく頑張った。競争に勝つために身近な人にも家族にもかなり迷惑をかけていたと思う。

それは何かを成し遂げるための必要悪だと自分に言い聞かせていた。

いや、自分に言い聞かせていたというより、当たり前だろと思っていた。周りの多くの成功者はいろんな犠牲の上に成立している。それが武勇伝となりブランドをつくる。

成長と成功を求め、色々なものを犠牲にして走り続け、果たして幸せになったか。実は間違いなく、あの時よりも幸せにはなった。

お金もなく、時間もない、あの日々は本当につらかった。

池袋駅はなぜだかみんな人にぶつかるように歩いてくる。

その池袋駅から西武池袋線の終電に乗り、降りるはずの小手指駅を寝過ごして埼玉の奥地、飯能駅で目を覚ます。絶望のまま駅から出ると真っ暗のロータリーにタクシーは一台もいない。

コンビニがポツンと一軒だけある。スマホの充電も切れかかり、充電器を買おうか、氷結を買おうか財布と相談する。氷結をあきらめスマホを充電し、その絶望をツイートしても、フォロワーのいない当時の自分には誰からの反応もない。

もう、あの時には戻りたくない。

お金があっても幸せにはならないというのは、貧乏人を騙す噓だ。僕はそんなキレイ事は言いたくない。焚き火をしながら、物思いに耽けることができるのも、多少のお金があるからだ。

ただ一方で、競争し続けた先に何があるのかというのが分からなくなっていたことも事実だ。

僕には先々のビジョンや、世界に残したいものがあったわけではない。とにかく目の前のことに熱狂し、どこにたどり着くかもわからず、ただ短距離走を繰り返していた。それが自分の性格にもあっていた。

でもどこかで、これなんでやってるの? これいつまで続けるの? という思いがあった。

ある晩「いつか割れると分かっている風船に必死に空気を入れている気分」というツイートを無意識にしていて、友達に「大丈夫?」と心配されたこともある。

自分が仕事で何かを成し遂げたわけでもないのに、世の中のニュースを解説する。

自分も人間として終わっているのに、世の中の不祥事に苦言を呈する。

最初は、それがコントとして面白いと思っていたが、ある時から日常になり、自分とは若干違う、それらしい虚像が作り出される。

その虚像は大きくなり続け、多分これはどこかで破裂するだろうなと思いながら、もう自分の意思で止めることはできない。

編集者としてもビジネスマンとしても、中途半端な状態で壇上に上げられ、降りられなくなっていることを、酒を流し込むことで見ないようにしていた。

文春砲で、多くの仕事が一気になくなったけれど、実際はその前から、終わりが始まっていたのだと思う。

この本は『死ぬこと以外かすり傷』に対する反省と振り返りのアンサーソングだ。

多分、出版史上初の試みで、『死ぬこと以外かすり傷』の内容も全て収録し、その返歌として同じ分量の文章を書き足している。

僕は『死ぬこと以外かすり傷』を恥ずかしくて直視できない。今の僕には当時の文章があまりにも強い。なぜ、あのとき嫌われていたか、今となってはそれなりに理解できる。

かといって、成長や成功を求めることや「意識高い系」を否定するのも安易だと思っている。

たしかに、今の時代には「成長なんて必要ない」「ありのままでいい」と優しく投げかけたほうがウケる。 

でも騙されてはいけない。それは、あなたを安心させるだけで救ってはくれない。

『死ぬこと以外かすり傷』は仕事論としては、間違っていないと思っている。でも、それが幸せとずっと比例するかは別だという話だ。

つまり、『死ぬこと以外かすり傷』は仕事論で『かすり傷も痛かった』は人生論だと思ってほしい。

これから仕事を頑張るぞという鼻息荒い若者は『死ぬこと以外かすり傷』(赤パート)を読んで仕事に狂ってほしい。

でも、その途中で何かに絶望したり、調子に乗り過ぎて文春砲を喰らったりしたら、『かすり傷も痛かった』(白パート)があなたに寄り添ってくれるはずだ。

人生は長い。僕と同じように仕事を頑張っていた人で、心がポキッと折れてしまった人も、少なくない。割と当たり前にある。

僕自身、異様な躁状態で仕事に狂っていた時に、病気ではないかと周りから心配されていたらしい。

人生の中で、一心不乱に頑張る時もあれば、少し休む時もあって良いのだと思う。

ブレながら、矛盾しながら、みっともなくても生きていく。

『死ぬこと以外かすり傷』は結論を言い切っていて気持ちがいいが、『かすり傷も痛かった』は結論もなく曖昧なまま書いている。

仕事と違って、人生には答えがない。僕の競争から迷走に変わった人生が、あなたの人生とどこかで交われば、嬉しい。

2023年8月28日 箕輪厚介


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