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初版8000部から16000部へ。『ハートドリブン』が発売前重版になったわけ <本の売り方 初速編>

ボイスメディア「Voicy」で10月2日に放送された、箕輪厚介さんの「ミノトーーク! 本の売り方 初速編」 をお届けします。


箕輪流 働き方改革

おはようございます。箕輪です。
今、布団に寝転がってしゃべってます。

僕の場合、デスクワーク的な仕事、会社のデスクでパソコンを操作してやるような仕事のほとんどはベッドで寝転びながら、朝のうちにスマホで済ませてます。

もちろん、打ち合わせをしたり、長い文章を書いたりする時はパソコンを使うし、本のゲラ作業は紙でやります。でも、それ以外のデスクワークは全部スマホでやってしまうので、机の前に座ってやる仕事というのは、僕はほとんどありません。

普通は、習慣や見た目を重視して「電車に乗って、会社の椅子に座って、パソコン起動させて」って仕事するけど、別に寝転がってスマホでやった方がちゃちゃっと終わるんじゃない? って思います。


本屋で、どうやってその本を手に取らせるか

今日は本について。

僕が編集した、アカツキの塩田元規さんの『ハートドリブン』を例に、売れる本が最初どのように火がつくか、いわゆる初速について話します。

本って、本当におもしろくて、ある意味ギャンブルみたいなものです。

本が発売されると、本屋さんという物理的なスペースに、本を並べてもらいます。でも、本屋に訪れるほとんどの人が、その本が発売されたことを知りません。

まずは、何百冊と本が並ぶ中で、その本がお客さんの目にとまることが必要です。目にとまって、手に取って、どんなおもしろいことが書いてあるんだろうと本のページをぺらっとめくる。そして、その本を読んでみようと思ったら、お客さんはレジに持って行ってお金を払う。

これって本当に奇跡的なことだと思ってます。

例えば、マスクを買おうとコンビニに行ったら、当然マスクを買いますよね。もちろん、「この本を買うんだ!」と決めて本屋さんに行く人もいます。でも、多くの人は行ってから、どの本を買うか考えます。

だからこそ、その人にどうやって手に取らせるかが、本当に勝負所です。


注目すべきは「搬入日」のデータ

出版業界の用語で、「搬入日」という言葉があります。

これは、新刊が都内の大型書店に搬入される日で、『ハートドリブン』(10月3日発売)の搬入日は10月1日でした。

紀伊国屋書店新宿本店など都心の大きな本屋さんと横浜あたりまでの本屋さんには『ハートドリブン』が並びました。発売日前日の2日には、大阪、名古屋、福岡などの主要地方都市に到着します。

そして、いよいよ発売日である10月3日には全国で手に入る状況になります(離島などは除く)。

編集者をやっていて、一番緊張感があるのは発売日よりも搬入日なんです。

紀伊国屋書店新宿本店など都内の主要大型書店に並べられた初日に、数字がどう動くのか、ものすごく気になります。

搬入日の夕方くらいに書店に着いて、そこから夜までの数時間の間でどれぐらい売れるかによって、その本の持つ地力が分かるんです。この本はそもそもこの時代に合ってるのか、読みたい人やファンがいるのか、がはっきりします。

僕が編集する本ではあまりないのですが、搬入日の売上は0冊という本も結構あります。そうすると、ちょっとこの本は違ったねとなります。

本というのは、本当にギャンブルみたいで、投げた後に結果が分かります。搬入日のデータをまったく見ない編集者も多々いるんですが、僕はいつも祈るような気持ちで搬入日のデータを見てます。


発売1か月前からのプロモーション活動

『ハートドリブン』は搬入日の数字が非常に良くて、初速がついたなと実感しました。これはそこそこ売れるだろうと安心したくらい、ちゃんとした数字が入りました。

このように『ハートドリブン』が搬入日に良い数字を出した、つまり、初速がついた理由の1つに「事前の煽り」があります。

さっきも言ったように、お客さんが本を手に取ってくれるのは本当に奇跡のようなことなんです。

僕は、運や流れに任せるのではなく、発売1ヶ月前くらいから動画を作って流したり、記事を書いたりと地道にプロモーション活動を展開して。

「ああ、なんかこの本欲しいな」と思ってもらうために、Twitterで本の製作過程を見せるようにしました。

そこから、Amazonで予約してもらえるように設計し、結果的に『ハートドリブン』は発売前に約5000冊売れました。


最近、本屋さんも僕のTwitterを見てくれています。予約段階での「ざわざわ感」が本屋さんに伝われば、「この本売れそうだな」「期待値高いな」と思ってもらえるんです。

そうすると、本をいい場所に並べてもらえます。いいとこに並べるとやっぱり目にとまるし、お客さんが「これは読むべき本なのかな」と思って手に取ってくれる確率が上がるんです。

僕の編集する本がある程度売れるのは、事前の煽りによって初速をつけることができるというのが要因として大きいです。


初速がつかないと本は売れないのが現実です。

本屋さんは限られたスペースで、できるだけ多くの本を売りたいと考えています。だからと言って、売れる本だけを並べていると本屋さんの多様性がなくなって、逆にお客さんが来なくなったり、イメージやブランドが下がったりします。

だから、売れなくても置くべき本は置く、などバランスはとります。でも、基本的に売れる本を置きたいと考えています。特に、ビジネス書などではその傾向が強いです。

新しい本が出ると、本屋さんも最初は目立つ場所に置いて粘ってくれます。でも、その本に初速がつかず、一週間くらい経っても全然売れないとなると、その本はドンドン後ろに下げられて、平置きから本棚にさす棚差しへと並べ方が変わっていきます。

棚に差されると、お客さんがその本をわざわざ手に取ろうと思うことはなかなかないんですよね。つまり、その時点でもう売り切るのはかなり難しい。だから、初速がつかないと、どんどん売れない路線になっていく流れがあります。


初版部数が初速を決める

もう一つ、初速をつけるのに大事な要素が「初版部数」です。

『ハートドリブン』の著者である塩田元規さんは、メディアでの露出がそれほど多い人ではないです。そして、SNSのフォロワー数が多いというわけでもない。それでも、僕は『ハートドリブン』の初版部数を決める時に、そういったことは気にしなくていいと考えていました。

でも、うちの会社(幻冬舎)や営業部は『ハートドリブン』は8000部スタートが妥当なラインと判断したんです。今のご時世、8000部でもなかなか大きな数字です。

でも、この二年間で僕が編集して8000部で終わった本なんて一冊もないんです。だから、提案された数字に納得がいかなかった。

初版部数が少ないと初速がつかない理由は簡単です。初版部数が少ないと、本屋さんで並べてもらうときに「いい場所」が取れないんです。

8000部が全部、本屋さんに行き渡るならいい場所に並べてもらえます。

でも、『ハートドリブン』は予約段階で5000部売れてしまってるから、本屋さんに配本されるのは実質3000部。本屋さんは全国に1万店舗以上あるから、3000部だとほとんどの本屋さんで見ることがないです。

そうなると、どんないい本でも売れません。つまり、ある程度の初版部数を出さないと本屋さんに並ばないから、よっぽど奇跡が起きない限り売れないです。だから、僕は最低でも初版15000部は出したいと考えました。

コアな人に向けての本を出す場合は、ピックアップした書店へ重点的に配本して目立つようにする作戦もあります。でも、『ハートドリブン』はそういう本ではないので、初版で15000部を刷れないなら勝負しても勝てない。

だから、僕は会社と交渉して、初版12000部に上げて。その後、予約販売での数字を見せて発売前重版し、最終的には16000部になりました。


初速がついてこそ、本という飛行機は離陸する

発売前の部数の格闘、事前のプロモーションなどで、かなり本気を出して行動していかないと、本を売っていくのに大切な「初速」を偶然に頼るしかなくなります。だから、そこをいかにやり切るかが勝負です。

ある程度初速がつくからこそ、本という飛行機は離陸する。だからこそ、初速がつくための戦略が大切になってきます。離陸しないことには、本という飛行機はずっと地上を走っているようなもの。

それでは著者に申し訳ない。それに、せっかくいい本を作っても読者に届けられないから、編集者として読者にも申し訳ないと思うんです。だから、本という飛行機を離陸させるために、どれだけ自分で考えて行動していくかが重要です。


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書き起こし:小川絵里高橋やすおみ
編集:小川絵里、橘田佐樹
写真:森川 亮太

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