箕輪厚介、ガチで語る 「本を出すということ」 #箕輪編集講座
2019年5月25日(土)渋谷にて、箕輪厚介 ガチの編集講座が開講しました! 現役の最先端で活躍し続ける編集者による、3時間の熱い講座。
本を出したい! という強い思いを持った方や、編集者を目指す人たちがたくさん集まった講座で、本質的で実践的な講義が行われました。
その模様を、速報としてお届けいたします。
そもそもそれ、本にすることなの?
「本はあくまで一つの手段であり、目的ではない」
講義の冒頭、箕輪さんは言い切ります。毎日のように箕輪さんのところに持ち込まれる大量の「出版したい」という話の多くは、本にする必要がないと感じるものばかり。
それ、noteやブログ、イベントで話すなどの方法でいいんじゃない?
今の時代、ネットの海にポンと投げてみて反応がないものは本にしても需要がないという、ちょっときついかもしれないけれど、それが現実なのですね。
そもそもnoteやブログでファンが作れないものがヒットすることは、ほぼないと考えた方がいい。本を出す前に試行錯誤することが必要なのに、そこを十分にしていないケースが多いのです。
書く側にしても編集者の側にしても、設定されるテーマは、多くの場合他人にとってはほぼ興味がないものです。しかし、それがいけないわけではなくて、5人でも興味があればそれで良く、よりニッチにすることである程度のパイを想定することができれば企画として成り立たせることは可能です。
例えば、ビジネス書で「やり切った」と言える数字は30万部と言われています。それは、ビジネスパーソンを対象としている場合のパイがそれくらいということです。
前田裕二さん著の『メモの魔力』は、最初から100万部を目指しているそうです。そこから逆算し、タイトルや装丁からしてハリー・ポッター的な世界観を取り入れることでビジネス書の枠を越えて、対象者を広げています。
ビジネスパーソン対象として作ると越えられない壁を越えるために、企画段階からこのようなことを考えていく必要があるのですね。
テーマを決める時に、そもそも何人に届けるためにやるのか? を考える。大切な視点です。
テーマは「盛る」ではなく、「掘る」
テーマを決める時にさらに必要なのは、「足し算」ではなく「引き算」です。箕輪さんの中では、彫刻するように掘って掘って残った姿が本のテーマになるようなイメージを持っているそうです。
むき出しの自分を探していくような形のほうが、むしろオリジナリティが出る。編集者はそれを導くのが仕事なのですね。
ついつい色々なトッピングをつけてしまいがちですが、むしろ「そもそもこれ、誰が読むの?」とツッコミを入れ続けることが必要です。
本を作る際、編集者と一緒に進める場合はツッコミを入れてくれる人とやるべきだし、いない場合は自分の中にツッコミしてくれる人を「飼う」ことを意識していくといいそうです。
このツッコミの段階で負けてしまうようなテーマであれば、まずはブログやnoteで書けばいいということになります。
一番大切な本の売り方
「多分、売れません」
衝撃的な言葉から始まった、本の売り方のお話。
通常は、10冊出して1冊重版かかるかどうかという厳しい世界。ほとんどの本は売れているように見せかけて、実際は売れていないのだそうです。
箕輪さんを見ていると、出す本出す本重版がかかっていくのが日常的。ついつい当たり前のように感じてしまいますが、出版業界の現実は厳しいのが実のところ。
今の時代、コミュニティがないとポンと本を出しても気がつかれなくなっています。NewsPicks Bookがなぜ売れるのか、というと界隈がコミュニティ化されているからということが言えます。すでに、その世界観が好きだという人が集まってコミュニティを形成しているので、今や、界隈の方々にはたくさんの出版オファーがきているのが現状だそう。
「ずるい」と言われても、箕輪さんにしてみれば必死でそれを作ってきた結果なのです。
時間の奪い合いから、心の奪い合いへ
コンテンツがありすぎて、時間を奪おうとしても無理がある現代。自分の本がLINEに勝てるのか? ディズニー映画に勝てるのか? ということと本気で向き合っていかなければなりません。
そんな時にどうやったら勝てるかというと、心さえ奪っていればいいわけです。
箕輪さんがプロデュースしている箕輪★狂介の「徒花」とMr.Childrenの新曲のどちらを選ぶか? という時、一般的に考えればMr.Childrenに勝てるわけがありません。
しかし、ツイッターなどで少しずつ狂介の歌が上手くなっていく様や、地方のドサ回りの様子などを日々見せていくことで、「こいつ、俺が応援しないとどうしようもないな」と、心を奪える可能性が出てくるのです。
接触時間が長くずっと見ているものは、自分ごとになって気になるという現象が起きます。成長過程を見てしまうと、心を奪われてしまうのですね。
そのためにも「さらけ出す」ということは、大事になってきます。本も企画段階から出し続けることで、愛着を持ってもらうことができます。
無名レベルであるからこそ、下書きでもいいから出し続けるのが大事なのだそう。クオリティにこだわるあまり、出すことを躊躇してしまうのはもったいないですね。
この次の段階が、コミュニケーションです。さらけ出して反応してくれた人に対するレスポンスが大事で、それはツイッターでいうとリツイートやいいねだし、リアルに会うということにもなります。毎週、毎日、2万人にも会い続けることは可能で、その過程で心を奪っていくことができるのです。
これは、規模が小さければ小さいほどできることなので、おろそかにしてはいけないと箕輪さんは語ります。この繰り返しで、それを大きくしていくことが本の売れない時代だからこそやるべきことなのです。
本は「交差点」を作るもの
「何で本を出すんですか?」
これに対して明確に答えられる人が、なかなかいないそうです。
本を出すのはだいたい半年はかかる仕事、印税で言ったら到底割りに合うようなものではありません。本で売れようとするのはコスパが悪いからこそ、なぜ本を出すのかは、しっかり考えたほうがいい。
本を出すことの価値とは、同じ考えを持った人や作品を愛してくれる人に出会えることこそにあります。
この価値について箕輪さんは、渋谷のスクランブル交差点をイメージしているそうです。通常は、知らない人同士が歩いている交差点ですが、そこに同じ考えを持った人を集める装置が本です。
さらに、集まった人たちをどうするかをいくらでも描くことができます。オンラインサロンにするもよし、本一冊1500円以上の価値を感じる人が多いのなら、投げ銭をしてもらってもいい。
本を出すことでどういう風にビジネスを展開していくのか、どんなコミュニティを作っていくのかを考えていくことができます。
この交差点を作るパワーがあるのが「本」なのです。
もう、本を売ることで利益を出すことが目的ではありません。紙の束が何冊売れたか、ではなく同じ考え方を持つ人たちを集めて、濃いファンを作ること。これが本質であると言います。
もう一つ、本を書くことで得られることがあります。
普段自分がふわっと思っていることをいざ書いてみると、つまらなかったりする。けれど、日記ではなくて売るという現実の中で書くことで、自分の人生やノウハウから余分なものが削ぎ落とされて磨かれていくことになります。
本を書くことで自分のコア、価値が認識され明確になっていきます。書いていく過程では、それが価値があると感じられる場合も、書いてみたら価値がなかったと気がつく場合もあるでしょう。価値がないと気がついたとしたら、そこからまた、やれることが生まれるのです。
だから、「はじめに」だけでも書いてみるといい。
箕輪さんからのメッセージが、やや前のめりで話に没入していた参加者の胸に、深く届いた様子でした。
この後、1時間にわたって「企画書チェックと個別相談」が行われました。3万円の会費を払って参加しただけあって、企画書を手にやって来た方たくさんおり、熱い思いが飛び交う実践的な質疑応答タイムとなりました。
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執筆:柴山 由香
写真・トップバナーデザイン:池田 実加
グラフィックレポート:小野寺 美穂
イベントバナーデザイン:惣島 厚
イベント運営:箕輪編集室運営
<本イベントの動画は箕輪編集室内にていつでも見ることができます。>