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「アウトプットがすべて」実力主義の世界で磨かれたいぶし銀のデザイナー

「好きこそ物の上手なれ」その言葉を体現している人がいます。

2020年1月までデザインチームのリーダーを務めた、平岡和之さんです。

箕輪編集室(以下「みの編」)では、イベントの冊子やバナー、オリジナルグッズなどさまざまなデザインを手がけ、本業もプロのデザイナーとしてご活躍されている平岡さん。

そんな平岡さんのことを周りはこう言います。

「とにかくデザインが好き」「職人」「師匠」

デザイナーとしての原点、そして、平岡さんにとってデザインとは何か。

その奥深き思想を探ります。

デザイナー・ヒラオカの原点

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ーーデザイナーを志したきっかけを教えてください。

もともとは絵を描く仕事に就きたくて、子どもの頃は漫画家になりたいと思っていました。でもよくよく考えたところ、自分ひとりで完結するよりも、いろいろな人と関わりながら仕事をする方が自分には合っているんじゃないかと思ったんですよね。

その原体験として思い出すのが、中学生時代の文化祭です。
クラスのメンバーで大きなモザイクアートづくりに挑戦したのですが、それは到底ひとりでできるものではありませんでした。そこで、まず僕が下絵を書いて、そのあとにみんなでパーツを埋めていったんです。それが完成した時、ものすごく感激して。その達成感が今も心に残っています。

この体験が、アートディレクターという「デザインの監督」とも言える今の仕事にも繋がっていると思います。

ーーみの編にはどうして入会されたんですか。

デザイナーとして、編集者・箕輪厚介の仕事ぶりを近くで見てみたかったからです。

出版業界で働いている僕にとって、編集者は身近な存在です。でも、彼らと仕事に対する姿勢や向き合い方について語り合う機会は意外とありませんでした。僕はデザインが好きだったので、ずっとデザイナーばかり追ってきて。

でもある時、違う職種の人、特に編集者ともっと関わっていきたいなと思ったんです。

ーーそれはなぜですか?

デザイナー人生の中で、自分が最も影響を受けたのは編集者だと気がついたからです。
本業では漫画や雑誌のデザインをしているのですが、世の中で最初に自分のデザインを見てくれる「第三者」が、編集者なんですね。
デザインする対象をより魅力的に見せるにはどうすればいいのか、編集者と意見をぶつけ合って切磋琢磨してきたんです。

これまで「この人はすごい」と思った編集者と仕事をしたあとは、自分自身が大きく成長できていました。ある意味、僕は編集者に育ててもらったんですよ。それで、編集者の考え方をより深く知れば、もっと成長できるのかなと思ったんです。

だから、みの編に入る前から「ビジネス書の作り手としてだけでなく、プロモーションにも特化しているヒットメーカー」として認識していた編集者・箕輪さんの仕事を近くで見られるのは大きなチャンスだと思い、入会しました。

僕にとっては、誰と、どんな仕事をするかというのが重要なことなんだと思います。みの編には、その重要なポイントが両方あったということです。

ーー本業のデザインの仕事もある中でみの編に入って、大変ではなかったですか?

そりゃあもう、大変でした(笑)。
最初のデザインを手掛けた時は、めちゃくちゃ仕事も忙しかったんです。でも、「ここで手を動かさなかったら、きっとみの編で何もやらないままになるな」と予感して、思い切ってやってみたんですよね。
その結果、いいアウトプットを出すことができて、ありがたいことに箕輪さんにも「いいね!」と評価してもらえました。

そのあともデザインチーム内の企画に積極的に応募して、どんどん周りに認知してもらえるようになりました。

早い段階から「ヒラオカはこういうデザインをする人だ」と周りに認識してもらえたことで、任される機会も増えていったと思います。

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決してアウトプットの目的を見失わないこと


ーー自分のデザインに対して指摘を受けた時、嫌な気持ちにはならないのでしょうか。

それはならないですね。独りよがりのデザインがしたいわけじゃないです。目的に合致していないと意味がない。

僕がすごいと思う編集者は、最終的には「アウトプットがすべて」と考えている人たちばかりです。
そして、その考えに僕も共感しています。なぜなら、デザインを見た人に対して解説はされないものだからです。

デザイナーが自分のエゴを通すことには意味がなくて、できあがったものが受け手にどう伝わるかが大切だと思っています。だから、同じ目標に向かっている相手からの指摘であれば、最大限尊重します。

それに、デザインは自己満足のためのものではありません。常に「コンテンツファースト」だということを意識しています。デザインを通して伝える内容が一番大事で、その世界観を魅力的に表現するためのデザインだということです。

僕の中で「好きなデザイン」と「納得できるデザイン」が必ずしも合致しているわけではありません。
言葉で表現するのがとても難しいですが、僕にとって「いいデザイン」とは、最も目的を効果的に解決するアウトプットです。
それを生み出すために、まずは目的が何かを正確に見極め、情報整理をした上でデザインすることが大切だと考えています。

デザインは、クライアントが求めるものというのは大前提。その上で、自分もいいと思っているものでないと意味がありません。この二つの条件が揃っていなければ、誰がデザインしても同じ。極端に言ってしまえば、デザイナーの存在意義がないとさえ思っています。

自分自身の想いとクライアントの目的、双方が満足するものでなければ、世に出しちゃダメなんです。そういった意味で、妥協せずに自分が100%納得できたものを出すようにしています。

だって、手を抜いたアウトプットにいちばんショックを受けるのは自分ですから。
デザインはいい意味でもわるい意味でも後に残るものなので、手を抜いてしまったという後悔もずっと残り続けます。

だから僕は、初めてクライアントに見せる時まで対象についてとことん考えて、自分が納得いくまで突き詰めます。そして、誰かに見せたあとは他の人の意見を取り入れながら、いちばん伝わるアウトプットを試行錯誤していくんです。


ーーあまりないとは思うのですが、チームで平岡さんの以外のデザインが採用された時はどう思いますか?

最高だなって思います。「ありがとう!」って。だって、その方がデザインがよくなるってことだから。

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(若いころは嫉妬してたかもしれないですけどね。)


デザインがよくなることは大歓迎なので、他の人のデザインを見て「こっちの方がいいからこれを採用しよう」って自分から言うこともあります。
あくまでも「コンテンツファースト」ですから。中身が伝わるアウトプットが、正しいです。

だから、自分のデザインが採用されなかったとしてもムカつくとか理不尽だとかは思わなくて、素直にそのデザインの方がよかったんだなって思うだけです。
いいものができることが、いちばんいいです。

ーーチームで意見が合わない時は?

その時は、両方作ってみます。遠回りなようで、実はこれがいいアウトプットを生み出すための近道だったりします。
目に見える形にしてしまえば、客観的にどっちがいいかわかって納得できますから。これがデザインの便利なところでもあります。

デザイナーにとっては、自分の作ったものを他人から評価されるという経験が大切なんです。さらにそれが自分自身でできるようになると、なおよし。「他人の目になる」ということですね。

自分のエゴを除いて客観的に自分のデザインを見て、中身を伝えられているかどうか判断できることが大切です。
僕もだいたいの場合、できあがったデザインはすぐ提出せずに一晩寝かせておきます。そして翌日あらためて見てどう感じるかを大切にしています。その時が、いちばん他人の目に近い感覚でデザインを見られていると思うので。


デザイナーの「実力」とは何か


どのような人がデザイナーに向いているのでしょうか?

執着しない人だと思いますね。バッサリと、過去の苦労や気持ちを忘れて、純粋にいいアウトプットを出すという目的に向かっていける人。
かつ、粘り強く試行錯誤できるということも大切です。伝えたい中身に真摯に向き合ってこだわり抜けるデザイナーは、強いです。
どんなに大変でも自分がいいと思った方を選べるか、目的に対して真剣に向き合えるか。そういったことがデザイナーにとって必要な力だと思います。

デザインの醍醐味って、完全実力主義なところです。
デザインがめちゃくちゃ上手い人に仕事が全く来ないっていうことはありえません。判断基準がはっきりしている世界ですから。
大変ですが、だからこそ頑張れる。デザインの世界はアウトプットが命。曖昧な理由が通用しない厳しさがいいんです。

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(だって見たらわかるものですから)

いばらの道の先に待つ景色は


ーーデザインをよりよくするために普段からどんなことをするべきでしょうか?

常に、楽じゃない方を選び続ける覚悟を持つことだと思います。
楽したらいいものなんてできません。生活もデザインもそうです。
僕は本来、怠け者だし、何もやることがなかったらすぐ寝ちゃうし。Netflixみてダラ〜っとして。

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(すぐ寝ちゃう平岡さん。。。。(可愛))


会社で部下をマネジメントする立場になって実務から離れたことで、気持ちに余裕が出てきたんですよ。ただそれでは日常に刺激がなくて、なかなか革新的なアウトプットが生み出しづらくなってくる。だから、意図的に仕事以外でもデザインをする機会を増やしているんです。
そういう日常的な意味で楽をしちゃいけないっていうこともありますし、デザインをしている時も楽をしないように普段から意識しています。

楽して作ったデザインって結局、しょぼいんですよ。それは他の人のデザインを見ていてもすぐにわかることです。「あ、ここで手抜いたな」って。
自分がいいと思えるものがすごく大変で手のかかるものだと気づいても、そこで見て見ぬ振りをせずにしっかり向き合うことが大切だと思っています。例えるならば、自らいばらの道を選んで進む覚悟です。

だから、デザインのやり直しは自分からガンガンやります。部分的な修正でいいと言われても、それで全体のバランスが崩れて少しでも違和感が出てしまった場合は躊躇なく捨てて、一からやり直します。

デザインする上で、「せっかく作ったんだから」という言葉ほどいらないものはないと思いますね。やはり、アウトプットがすべてなので。最終形しか世に出ないですから。

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ーーデザインの途中で挫けてしまうことはないのでしょうか…?

それは、ないですね。だって、どんなにつらくても成し遂げた先にもっと大きな喜びがあることを知っていますから。
仕事を依頼された時の喜び以上に、クライアントからいいリアクションをもらった時の喜び。それ以上に、みんなで切磋琢磨して作り上げたものが世に出た時の喜びが大きいんです。

デザインをしていて嬉しいタイミングは何度かありますが、アウトプットが世に出て反響があった時の喜びは、最初の段階での小さな喜びとは比べ物にならないくらいの大きさです。

そりゃ、デザインをやっている最中は大変ですし、真剣にやっているほどやり直しになった時のダメージも大きいものです。

だけど、つらかったことって不思議と忘れちゃうんですよね。どんなに途中が大変でも、一度すべてを成し遂げた景色を見たらその体験が忘れられなくて、またやりたいと思うんです。

それに、やればやるほど自分のできることが増えますから、飽きることはないですね。周りから得意だよねって言われて、自分でもそうかなあと認識して、続けていくうちにどんどんできるようになっていったら面白いじゃないですか。手を動かした自分の実績が、自分自身を新たなステージに連れて行ってくれる感覚です。

たぶん足が速い人って、走るのが好きな人ですよ。そうじゃないですか?
やればやるほど、自分ができる量も幅もどんどん増えていくことを実感できますから。だからこそ、デザインは面白いんです。

デザインを始めた時よりも今の方がもっとデザインが好きだし面白い。それは、間違いないことです。

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デザインの魅力について、熱く語ってくださった平岡さん。

「完全実力主義」という厳しい世界の中で、決して楽をせず、真摯に目的を捉え続ける姿勢。

苦悩を乗り越えた先にしか見られない素晴らしい景色があるのだということを、教えてくれました。

次回は、平岡さんがみの編での活動を通して体現してきたデザインへの想いについて、さらに深掘りしていきます。

聞き手/柳田一記大西志帆
編集/大西志帆
写真/小野寺美穂
バナーデザイン/惣島厚







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