画一的な基準を捨てた出版再興戦略
5月18日大分県別府にて「時代の先見力2.0 箕輪厚介講演会」と題した講演会が開催されました。
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目的を見極めて、やり切れ
司会:本質的な仕事だと判断できる目を鍛えるには?
箕輪:ずっと考えてるんだよね。それは目的が明確だから。例えば、NewsPicks Bookの1年目だったらとにかく売ること。ごちゃごちゃ色んなこと言ってる暇はない。ブランドっていうものは、最初は圧倒的な数字なんですよ。
それこそ今本屋さん行って(NewsPicks Bookが)良い場所に並べられてるのは、良い本を出してるからじゃなくて売れるからなんだよね。当たり前だけど本屋さんだって商売だから、置いた本が売れなかったら潰れちゃうわけ。
で、1年目は圧倒的に売るってことを目的にした。もうブランドができたから2年目はぶっちゃけ売れなくていいの。結果的に売れればいいけど、NewsPicks Bookって月額5000円のNewsPicksアカデミアの会員に配るビジネスモデルだから、1冊も売れなくても利益が出るのよ。
だから、佐渡島さんの本は売れないと言われている英語のタイトルにした。普通に大分の人とかがふらっと書店に行って『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』ってあっても誰が買うんだって!
2年目はそういうフェーズに移行してて。むしろ、俺が読みたいと思う本を純粋に作ろうと思ってる。
こういうことを多くの編集者は分かんなくて。売れてる時は内容がどうのって文句を言うし、嫉妬する。よく多くの編集者が「良いもの作ってるからいいじゃん」とか、「売れなくてもこれはよかった」とか言うんだけど、そこの思考がまず甘いんだよね。
売れなくてもいいビジネスモデルをまず死に物狂いで作んなきゃいけないんだよね。だから俺は月額5000円のサービスをやってる。「良いものを作ったから良いじゃん」って言えるビジネスモデルを構築することと、数字に妥協しないことをやりきったわけ。
それって考えれば分かることなんだけど、みんなふわっとしか考えてなくて。それこそWEBメディアと組んで、配送も完璧にして、とか。具体的にやらなきゃいけないことがいっぱいあんのに、言葉遊びみたいなことやってて。本当に思考が甘いんだよね。っていうか、緩いんだよね。
司会:なるほど。
箕輪:だから、行動にならないんだと思う。明確に思い描ければそこを目指すからね。村上龍が「自分の欲しいものが何か分かっていない奴は、その欲しいものを手に入れることができない」って言っている。自分は今何を目指すべきなのかっていうことを明確に言語化しないとそもそもモチベーションって沸かないよね。
届けるまでのムーブメントを起こせるか
司会:NewsPicks Bookは若者の頭の中の言語化が上手くできているのかなと思ったのですけど、それが売れる最も大きな要因ですか?
箕輪:単純に俺が読みたいものを作っているだけだから、それがある程度ほかの本にはできていなくて、NewsPicks Bookにはできているのかもしれない。でも、内容よりもすべての組み合わせだよね。
司会:売り方とかですか?
箕輪:いわゆる現象にするってことだよね。『多動力』が出たら、見出しの「電話をするやつとは仕事をしない」みたいなものをTwitterに投稿しまくって、上の世代と下の世代の論争みたいにするってことだよね。そこに加わるためのチケットとして本を読むってこと。
ぶっちゃけ本買わなくね? もうウェブでいいじゃん。俺最近純粋な気持ちで本を買って、なおかつ最後まで読み切った本ないわ。編集者としては失格だと思うんだけど、普通の人はこんな感じだと思う。
まず買わないし、最後まで読み切らない。でも買って読み切ってもらうためにはどうしたらいいかというと、ある種文明となっていてその論争なり現象なりに参加するための本。
『日本再興戦略』は落合さんの本の中では難しくないけど、ぶっちゃけ落合陽一の本なんて何書いてあるかわかんないんだよ。意味わかんねぇよ。
昨日もずっと飲んでたんだけど、まず「2430」ってLINEが来て終わり。まあ俺もそういうタイプだから言わんとしていることはわかる。彼は葉巻が好きだから、適当な葉巻バーのリンクだけ送って。そしたら「うっすうっす」みたいに現れた。
で、ピンセットでずっと葉巻吸ってるから「ピンセットおかしくないですか?」って言ったら「じゃあさ、箕輪マンはクマンバチ落ちてるときピンセットで拾わないの?」って。まずクマンバチ落ちてても拾わねぇよ(笑)。「だって手で拾ったらクマンバチ壊れちゃうよ」って言ってて。
単なる変人じゃん。でも、落合陽一って一種のファッションだと思うのね。すごい教養があって、別にイケメンとかじゃないけど「Yohji Yamamoto」の黒い服に包まれて。
今若者でカッコいいのってそれこそ前田裕二やメタップスの佐藤航陽、落合陽一みたいな自分で時代を切り拓こうとしている人たちで。中でも一番ファッション的に新時代っぽいのが落合陽一。
落合陽一の本とかTwitterって本当にそれが学術的とか情報的に欲しい人がいるわけではなく、ある種ファッションとしてカッコいいな、新時代っぽいなっていうのでみんな好きだと思うんだよ。
だからその文脈をよく肌感覚を持って理解して。『日本再興戦略』もCDのジャケットみたいなの作ろうと思って、ただカッコいいみたいな。
「ポジションを取れ。批評家になるな。フェアに向き合え。手を動かせ。金を稼げ。画一的な基準を持つな。複雑なものや時間をかけないと成し得ないことに自分なりの価値を見出して愛でろ。あらゆることにトキメキながら、あらゆるものに絶望して期待せずに生きろ。明日と明後日で考える基準を変え続けろ。」
って言葉だけバーンと裏側にのっけて、表は「天才が描く希望の国のグランドデザイン」みたいな本当にシンプルにして。
なんか編集者って帯ではこれを伝えなきゃいけないとかノウハウばっかり言うんだけど、どうでもよくて。そんなのてめぇが先輩に習ったくだらない知識だろって思って。
それより俺が大事にしているのは世間が何故そこに熱狂するかってユーザーの気持ち。ダイヤモンド社とか日経BPとかのビジネス書と同じ十万部が売れても、NewsPicks Bookの十万部のほうがより深く刺さっていると思うのはユーザーに寄り添っているからだと思う。
司会:これからの箕輪さんの方向性はどういうふうに考えているんですか?
箕輪:俺はもうやめたい。NewsPicks Book編集長もう忙しすぎる。体壊しちゃいますよ。で、こういうところで適当にしゃべってたい。飽きて戻りたいと思うかもしれないけれど、やっぱ大事なのは枯渇感みたいなもの。
ある程度もうルーティンになっちゃってて、出せば損しない、売れるってなった時点でもう俺のやるべきことは終わった。あとは、運用が得意な奴が引き継ぐべき。
俺はみんなが上手くいかないでしょって言っているところで立ち上げてバーンって現象にして。そこまですげぇ楽しいけど、もう勝ち戦みたいになっちゃった。すごいねって言われ始めたらぶっちゃけ飽きるから、正直情熱はない。
司会:つまりは箕輪さんは自分のポジショニングとして0→1に燃えるほうで、運営や1→10みたいなところでは違う人に任せるっていう。
箕輪:1→10が得意な奴がやったほうがいいフェーズには入っていくだろうなとは思う。次、編集長やるのぶっちゃけ大変だと思うよ。こんだけキャラが立って俺の力で売れているもんだから、次誰になりましたって言ったらみんなワッてひいちゃう可能性がある。
作るのが上手い奴はいくらでもいるけど、ムーブメントにできるやついないからこっちの価値観を変えるしかないね。もうそれはしょうがねぇって。まぁなかなか難しいよね。
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テキスト Takamasa Matsui
編集 橘田佐樹
バナーデザイン 山口ともみ
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